研究課題/領域番号 |
18K14126
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機薄膜 / 結晶性 / 機械学習 / 最適化 / 構造解明 / 第一原理計算 / 実験・理論・情報の融合 |
研究実績の概要 |
本研究では、高性能・長寿命の有機エレクトロニクスの実現に向かい、実験と機械学習の融合により良好な結晶性が保証される有機薄膜蒸着システムの構築を目指す(主な目標)。主目標の達成後、薄膜の分子レベル構造の解明(副目標1)・長期寿命有機エレクトロニクスの作り方の発見(副目標2)を目指し、業界への還元を狙う。
(主な目標への進捗状況)超真空容器、クヌーセンセル、低速度電子回折計とそれに必要なパーツを購入して有機薄膜蒸着システムの本体をゼロから設定した。金属銅やグラファイトなどの低速電子回折図形を綺麗に測定することに成功し、本体は正常に動いていることが確認できた。以上により、H31年度の研究計画をスムーズに行えることになった。
(副目標1への進捗状況)薄膜構造解明とは、薄膜におけるエネルギー地形(energy landscape)を探検して安定・準安定な分子配列を見つけることである。今年度では、エネルギー地形探索をアシストするための理論手法を創生した。この理論手法では、分子配列について時間依存シュレディンガー方程式を解いて低速電子回折図形を予測する。そして、教師なし機械学習によって安定・准安定な分子配列が存在する領域を予測する。主な目標が達成した後、それで得られる薄膜の構造を以上の理論手法によって解明できると考えられている(論文は作成中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(主な目標)有機薄膜蒸着システムのプロトコル(=具体的な実行方法)を設定するために、グラファイト基板(HOPG)に蒸着した有機化合物によって薄膜を形成しようとしている。HOPGは簡単に準備でき、高温アニーリングによって吸着物を容易に出すことができるので、試験系として非常に良いと考えられている。また、金属基板にとって必要な装置(イオンスパッター銃)は不具合があるので、それが修理されるまで金属基板を使用できない。今は有機化合物の蒸着パラメーター(蒸着温度、蒸着時間など)と薄膜の結晶性についてデータを集めるところで、ガウス回帰のような機械学習手法によって最適の蒸着パラメーターを絞り込むことを行うつもりである。薄膜の結晶性をできるだけ低速電子回折図形で測定したいが、それを観測できない場合があるので走査トンネル顕微鏡(STM)のイメージングも取り入れている。
(副目標1)以上の理論手法によって金属銅の111表面構造を第一原理から予測することに成功し、金属金基板に吸着したチオール層について多くの准安定状態を予測することができた。実験で形成した薄膜構造を解明するために利用できると思われる理論手法だが、様々な弱点がある。主には、時間依存シュレディンガー方程式を解くのは非常に時間が掛かるので、計算時間を減らす必要がある。また、時間依存シュレディンガー方程式を解く前に薄膜における静電ポテンシャルを計算する必要がある。今まで密度汎関数理論(DFT)で静電ポテンシャルを計算していた。原子数の小さい単位胞なら迅速に計算することができるが、基板と不相応があるときに原子数が圧倒的に増えるので、静電ポテンシャルのための計算時間が長くなる。静電ポテンシャルのための計算時間を減らすためにnon-self-consistent DFTを取り入れるか検討している。
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今後の研究の推進方策 |
(主な目標)最初はHOPG基板で有機薄膜蒸着システムのプロトコルを設定することを優先し、ガウス回帰のような機械学習方法で最適の蒸着パラメーターを探索する。様々な機械学習コードは別の研究で作成したので、機械学習の部分をスムーズに進める。HOPG基板に蒸着した有機薄膜が十分な結晶性で形成されれば、プロトコルを改善しつつ金属銅111基板のために実行できる。最後は、コンピューターでプロトコルの自動的実行について検討する。蒸着物となる有機化合物は未公開である。
(副目標1)上記の理論手法の実行時間を減らすことを優先し、コードの並列化やnon-self-consistent DFTなどを検討する。実行時間が短縮すれば、有機薄膜システムで形成した薄膜構造を解明し、HOPGに蒸着した薄膜について計算を行う。
(副目標2)主な目標が終了後、有機エレクトロニクスのために広く利用されている有機化合物HAT-CNを有機薄膜蒸着システムに入れて、優れた結晶性を示すHAT-CN薄膜を形成しようとする。そして、副目標1で創造した理論手法でHAT-CN薄膜の構造を解明しようとする。ここでは、有機薄膜蒸着システムの実用化を証明しながら長寿命の有機エレクトロニクスへ貢献することを狙う。
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備考 |
論文は作成中(6月提出見込み)
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