研究課題/領域番号 |
18K14128
|
研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
Pham VanThach 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), ポストドクトラル研究員 (70807809)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 磁性細線 / 電流磁壁駆動 / 希土類遷移金属 / 磁壁駆動速度 / ヘテロ界面 / 臨界電流密度 / Tb/Co / GdFeCo |
研究実績の概要 |
当初計画通り、Tb/Co多層膜とPt層のヘテロ構造磁性細線およびTb/Fe多層膜とPt層のヘテロ界面磁性細線を作成し、両者の電流磁壁駆動現象の違いを比較した。[Tb/Co(6nm)]/Pt(3nm)磁性細線では、電流による磁壁駆動速度は600m/secと高速であるが、[Tb/Fe(6nm)]/Pt(3nm)磁性細線では電流での磁壁駆動が困難で再現性のあるデータがとれなかった。この原因として、DMIの理論計算としてCo/Ptの値は大きいが、Fe/Ptの組み合わせでは小さいという報告を考えることが出来る。しかし、Feが組成比の半分以上を占める組成のTbFeCo合金とPt層からなる磁性細線では、低電流で磁壁は駆動できている実験事実からすると、この考察は矛盾することになる。[Tb/Fe(6nm)]/Pt(3nm)磁性細線については、更にその原因を調べる必要がある。 Tbはg値が1.5と、CoやFeの2.06に比べて小さく、磁化補償点と角運動量補償点が大きく異なる。一方、Gdのg値は2であり、FeCoのg値に近い。そこで、[GdFeCo(10nm)]/Pt(3nm)磁性細線を作成し、電流磁壁駆動実験を行った。その結果、磁壁移動速度は500m/secを超えることが分かった。ただし、Tb系と違って、Gd系では垂直磁化膜を得るための組成マージンがかなり狭い。したがって、電流印加により磁性細線がジュール発熱する影響を考える必要がある。しかし、ジュール発熱に関する報告はほとんどない。そこで、TDK製の磁気ヘッドに搭載されているNiワイヤを磁性細線に接触させ、通電時のジュール発熱に伴うNiワイヤの抵抗変化から温度を推定する実験の準備にとりかかった。来期に温度と磁壁電流駆動の関係を調べる予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通りに推移している
|
今後の研究の推進方策 |
これまで、電流パルス幅を数nsecと狭い状況にすると、試料と電流源のインピーダンスマッチングが悪く電流波形が不安定になり電流磁壁移動速度の算出にあいまいさが残った。そこで、インピーダンスマッチングを改善する試料ホルダーを改良し、より一層の安定測定ができるようにする。また、偏光顕微鏡の観察ステージの温度コントロールを可能にする改良を行い、温度を変えることで角運動量補償温度付近での電流磁壁移動現象の解明を行う。また、先期不明であった[Tb/Fe}/Pt磁性細線も作成し直して、電流磁壁駆動実験を再度行い、本当に磁壁駆動できないのか。できないとすれば何が原因なのかを解明する。 一方、本提案の最も重要なテーマの一つに磁壁駆動速度の改善がある。電流パルス幅を短くするほど磁壁移動速度は高速になる。ただし、数nmの短パルスの電流を試料に印加する場合、細線が薄膜で幅が細く細線長も長いために抵抗値が高く、電流源と試料とのインピーダンスマッチングが悪いため、電流波形は歪んだ形をしている。そこで、試料と電流源との間に回路を設けてインピーダンスマッチングの改善を試みる。現在、鋭い電流パルスで動いているとすると磁壁移動速度は6000m/secにもなる。一方、パルスの太いところの時間で計算すると磁壁移動速度は500m/secである。この改善により、より正確な磁壁移動速度を求め、材料や磁性細線構造と電流磁壁移動速度の関係を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画よりターゲット寿命が長く新しいターゲット購入の必要がなくなった。しかし、次年度にはこのターゲットが寿命となるはずなので、そこでこのターゲット購入費を利用する予定である。
|