研究課題/領域番号 |
18K14131
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
斉藤 大志 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (70611317)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 金属ナノ粒子 / 金属ナノインク / ショットキー接触 / 仕事関数 / ケルビンプローブ力顕微鏡 / プリンテッドエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
令和3年度は、金属/半導体界面のコンタクト制御を目的に、銀ナノインクからシリコン半導体上に作製した銀電極について、その電気特性と界面構造の解析を行った。これまで、電極の仕事関数評価や電子顕微鏡観察の結果から、銀電極側に結晶ドメインが存在することが示されていた。このため、これまでに得られていたデータを解析し、金属/半導体界面の構造と電気特性との関係解明に取り組んだ。 具体的には、シリコン基板上で銀ナノインクを焼成(温度:300度、焼成時間:5―30分)し銀電極を作製することで、ショットキーバリアダイオード(SBD)を作製した。電流-電圧測定の結果、作製したSBDのショットキーバリア高さが焼成時間に伴い増大することが明らかとなった。特にショットキーバリア高さは、ダイオード性能に関わる重要な特性であるため、その原因について検討した。ケルビンプローブ力顕微鏡を用いた測定より、銀ナノインクから作製した銀電極が、金属の銀よりも0.1―0.3eV大きな仕事関数を有していることを明らかにした。これは、銀電極上にナノサイズの結晶ドメインが形成されている事を強く示唆しており、このような結晶ドメインの形成がダイオード特性へ影響を与えている可能性がある。一般的に、結晶ドメイン間では電荷の拡散が抑制されるため負電荷が蓄積しやすい。その結果、銀電極とシリコンとのコンタクト界面において空乏層幅が増大したと考えられる。一方、空乏層幅の二乗はショットキーバリア高さに比例するため、結晶ドメインの形成によって空乏層幅が増大し、その結果ショットキーバリア高さが増大したことが理論的に裏付けられた。今後は、X線を用いた表面分析を活用することで、ドメインサイズや分布を計測し電気特性との関係解明を進めていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
得られたデータを詳細に解析することで、これまで原因が不明であったショットキーバリア高さの増加について、理論的に解釈することができた。一方、コンタクト制御までには至らなかった。また、ダイオードの静電容量-電圧測定についても測定には至らなかった。総合的に研究の進捗は見られたが、取り組むべき課題は残っている。ただ、当初の目的は達成しつつある。引き続き、課題解決に向けて検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
計画に大きな変更はない。今後の研究方策として、金属/半導体界面のコンタクト制御を中心に行う。加えて、作製したダイオードの静電容量-電圧測定(C-V測定)についても実施する予定である。具体的な実施内容は下記のとおりである。 【実施項目①:金属/半導体界面のコンタクト制御】半導体上にナノインクを用いて電極を作製することで、特異なショットキーダイオード特性を示す事が明らかとなった。この特性の制御(コンタクト制御)を目的に電極作成条件の検討に取り組む。これまでの結果より、ダイオード特性はナノインクの焼結時間によって変化することが示されており、焼結条件を細かく制御することでコンタクト制御に至る可能性がある。次年度は、焼結の温度と時間がダイオード特性(直列抵抗、閾値電圧)にどのような変調を及ぼすのかについて詳細に検討する。 【実施項目②:ダイオードのC-V測定】これまで電極の電気特性評価は電流-電圧測定を中心に行ってきたが、印加電圧による静電容量の変化を計測(C-V測定)することで、ダイオードの内蔵電位や金属/半導体近傍における半導体のドープ濃度を見積もることが可能となる。過去にもC-V測定による金属/半導体界面の評価を検討したが、装置の仕様が課題となっていた。装置のセットアップを改良し、これまでの課題の解決を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年1月-2022年1月の期間、海外へ長期出張したため当初計画していた物品の購入や参加を予定していた学術会議へ参加することができなかった。このため、2021年度の物品費および旅費等の支出がなくなったため次年度使用が生じた。生じた差額の使途としては、主に半導体基板やケルビンプローブ力顕微鏡測定用のカンチレバーの購入、論文投稿費、学会参加費に充てる。
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