ナノメカニカルセンサとは、感応膜と呼ばれる部位がガスを吸収して膨張し、その際に生じる機械的な性質(変位、質量、応力)の変化をシグナルとして読み取るタイプのセンサである。本研究では、ナノメカニカルセンサの感応膜でのガスの急脱着のダイナミクス(ナノスケール)と、その結果生じる感応膜の膨張・応力発生(マイクロスケール)とを統一的に理解することを目的とし、ナノメカニカルセンサの一種である膜型表面応力センサを用いて実験データを取得し、得られた実験結果と理論的なモデルを比較することを行った。 前年度までの研究で、ナノメカニカルセンサのシグナル応答を粘弾性体モデルにより再現し、物理・化学的なパラメータをもとに感応膜材料の性質を説明することに成功したことから、本年度はこの知見を用いてナノメカニカルセンサを用いた嗅覚センサシステムの感応膜最適化に応用することを行った。具体的には、流量制御を用いずにシグナルの応答波形のみからニオイ(ガス)を識別する「フリーハンド測定」の識別精度を上げるための感応膜材料の最適化にこの知見を生かした。その結果、フリーハンド測定により溶媒4種を識別する実験において、感応膜材料として汎用ポリマーを用いた場合は識別精度が0.9±0.15にとどまっていたのが、表面修飾シリカチタニアナノ粒子を用いることで識別精度が0.996±0.006まで向上させることに成功した。これは、これまでのナノメカニカルセンサの理論モデルに基づいて感度を上げ、応答のバリエーションを変化させたことによる。このように、ナノメカニカルセンサを用いた嗅覚センサシステムの感応膜最適化の指針を示すことに成功した。
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