ミクロンサイズの結晶中に生成する数十~数百nmサイズのボイドや、数十nmサイズのドメインで構成されるブロック状構造の可視化に成功したため、これらの挙動について解析した。結晶中に生成するボイドの数と面積の時間変化を解析したところ、今回の実験条件下(結晶の破壊が数秒で確認される電子フラックス以下)ではこれらに明確な変化は観察されなかった。また、個々の結晶においては、ボイドの数や面積には個体差があることが分かった。一方、ミクロンサイズにまで成長した結晶にはすでにブロック状構造や積層欠陥、転位などの欠陥は導入されていた。これらのことは、今回観察された結晶中に生成している欠陥の起源が、これよりも前の段階(核生成前後)にあることを示唆している。 ブロック状構造は、結晶がわずかに動くだけでもその見え方は変化する。実際に、直方晶結晶ではバンド状のコントラスト(ベンドコントゥア)が観察され、それがC軸に沿って動く様子が観察された。このことは、直方晶結晶がC軸に沿ってわずかに湾曲していること、観察中に結晶が動いていることを示す。一方で、1つのバンド状コントラストはある特定の結晶面に対してブラッグ条件を満たすことで形成する。すなわち、1つのバンド状コントラストに着目すれば、結晶を同じ方位から観察できる。この条件下でブロック状構造を観察したところ、ブロックの形状が変化していることが分かった。これは結晶中の分子が移動しドメインを再構築していることを示す。 また、ブロック状構造の電子回折図形の取得には成功したものの、電子回折図形の取得に必要な時間に対して欠陥の挙動のタイムスケールが短いことや、現状のセットアップでは軸調整範囲に制限があることなどの影響で、定量的な評価にはつながってはいないため、これは今後の課題である。
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