研究課題/領域番号 |
18K14136
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
笠井 秀隆 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80634807)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射光X線回折 / 層状物質 / 電子密度 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、層状物質の原子配列や電子密度分布を計測し、層状物質の性質を詳細な原子配列や電子分布の観測値から理解することである。放射光X線回折を用いて、原子がつくるシートの間に存在するわずかな原子や電子分布を観測することができる。大型放射光施設SPring-8でX線回折実験を行い、複数の物質の高分解能の回折データを得た。約2%の格子定数の変化で電気伝導度が大きく変化する層状物質の原子配列を調べた。実験室X線を用いて格子定数の変化はわかったが、原子配列のわずかなちがいは観測できていなかった。放射光X線回折データの解析において、可能性のある原子配列のモデルを検討した。それによって、層内の数%の原子の欠損と、電気伝導度が大きく増加した試料において層間の新たなサイトに原子が10%程度あることを明らかにした。層状物質の性質を大きく変化させるわずかな原子配列の差について新たな知見を得ることができた。また、物質の結合の精密計測と熱電材料の原子配列の観測を行った。加えて、前年度に開発した装置を用いてナノ粒子合成その場観察研究を行った。二次元ナノシートの合成中の原子配列の変化を追跡する放射光X線回折実験に挑戦した。前駆体、濃度、合成温度と圧力の範囲を最適化し、SPring-8でナノシート合成その場観察実験を行った。 最先端の構造科学研究の情報収集のため、日本結晶学会と放射光学会の年会に参加した。放射光学会年会において本研究に関連した招待講演を行った。電子分布の観測やその場観察の情報を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
層状物質の電気伝導度を大きく変化させるわずかな原子配列の差を明らかにできた。このことから順調に進展していると判断した。放射光X線回折実験を行い、データ解析において可能性のある原子配列のモデルを検討した。これによって、層内の数%の原子の欠損と層間の10%程度の原子を明らかにした。また、放射光X線回折を用いて、物質の結合と熱電材料の詳細な原子配列を明らかにした。加えて、前年度に開発した装置を用いてナノシートの合成その場観察実験を行った。合成条件を最適化して、再現性のある時分割の放射光X線回折データを得ることができた。層状物質の構造科学研究を発展させるために、国内の学会において招待講演と情報収集を行った。研究成果を2報論文発表した。
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今後の研究の推進方策 |
層状遷移金属ダイカルコゲナイドを含む層状物質について、放射光X線回折を用いて詳細な原子配列や電子密度分布を明らかにする。層状遷移金属ダイカルコゲナイドについて高分解能の回折データを得ることができる結晶試料の調査を引き続き行う。また、他の種類の層状物質について構造科学研究を行う。加えて、層状物質の合成その場観察研究を進める。層状物質の性質を結合、原子配列、形成過程から理解することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、実験試料は共同研究者から提供を受けたこと、実験に用いる物品などは所属研究室のものを有効活用したことから、物品費が抑えられた。本年度の繰り越し分は、最終年度の実験に用いる物品や放射光実験への旅費に充てる。
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