研究課題/領域番号 |
18K14140
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
富永 依里子 広島大学, 先端物質科学研究科, 講師 (40634936)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GaAs系半導体混晶 / 低温成長 / X線回折法 / ラザフォード後方散乱法 |
研究実績の概要 |
本研究では、光通信帯光源が利用可能なテラヘルツ波発生検出用光伝導アンテナの開発を行うことを目的としている。今年度は、その候補材料として研究代表者が取り組んでいるビスマス(Bi)系III-V族半導体について、250℃以下の低温成長時に、薄膜内にBi原子を均一に取り込む分子線エピタキシャル(MBE)成長条件を見出すことに成功した。
当該年度前半は、昨年度終了時にBiが表面偏析したBi系III-V族半導体しか得られていなかったことから、この改善を試みた。従来より、当該半導体へのBi原子の均一な取り込みは、MBE成長条件のAs分子線量が鍵となることが明らかになっているため、As分子線量の制御を重点的に行った。昨年時よりもAs分子線量を増加させ、GaAs(001)基板上への成長を試みたところ、まず、基板温度180℃でアモルファス当該半導体にBi原子が均一に取り込まれることをX線回折(XRD)法とラザフォード後方散乱法を用いて確認した。次に、同一のAs分子線量を適用し、基板温度を250℃としたところ、XRDパターンにおいて干渉フリンジがみられる明瞭なBi系III-V族半導体由来のピークが確認できた。250℃という低温成長であっても、電子面間隔が均一かつ基板との界面が平坦な当該半導体結晶が得られることが明らかになった。
次に、薄膜内でBiが均一に取り込まれる場合と表面偏析を示す場合との成長条件の差異を定量的に考察するため、成長時に適用したAs/Ga分子線量比を成長表面に供給されるAs/Ga原子数比に換算した。この結果、Biが表面偏析した薄膜の成長時は、供給原子数比が1未満であったのに対し、Biが均一に取り込まれた薄膜の成長時は、1より大きい値であったことが判明した。低温成長であっても、通常の成長温度の場合と同様に、成長表面でのAs/Ga原子数比を崩してはならないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Bi系III-V族半導体のBi原子を薄膜内に均一に取り込むことが可能な低温MBE成長条件を明らかにできたため、順調に進んでいると判断した。単に成長条件を最適化できただけではなく、成長表面に供給される薄膜の構成原子の原子数比を基にBi原子が均一に取り込まれる時と偏析する時の差異を説明できるようになり、この知見は超格子構造に展開する際に非常に重要である。これも順調に進展していると判断した理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果を基に最終年度は、Bi原子と、アンチサイトAsやGa空孔といった点欠陥の両方を適切に薄膜内に取り込むことが可能なMBE成長条件を見出す。また、申請時から予定している、他の材料との超格子や積層構造の成長も行う予定である。
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