研究課題/領域番号 |
18K14142
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
長谷川 智士 宇都宮大学, 工学部, 助教 (50600558)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 環状ビームの最適化 / 共焦点光学系による細胞の表面位置検出 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,単一の生細胞への安全で高効率な外部遺伝子導入法の開発である.その目的を実現するために,時間・空間制御性が高く,非接触で安全に遺伝子導入を行えるレーザを用いた手法を検討した.特に,環状のビームパターンを有するレーザー照射により誘起される収束圧力波を用いることで,従来と比べて高効率な遺伝子導入手法の開発を目指した. 環状ビームの生成には,計算機ホログラムを用いたビーム整形技術を用いた.計算機ホログラムは,環状ビームの径や焦点位置を任意に調節することを可能にした.また,設計した計算機ホログラムの実験系への実装のし易さを考慮して,空間光変調素子を用いた.計算機に接続された空間光変調素子上の計算機ホログラムは,容易に書き換え可能であるため実験の効率化に寄与した. 実験を進める中で,環状ビームの周囲に現れる不要なサイドローブが問題となった.そのサイドローブは,集光されたレーザービーム強度の空間的な密度を低下させるため,レーザー誘起衝撃波による機械的な応力の低下を引き起こす要因となった.その問題を解決するために,サイドローブが抑制された環状ビームを生成する計算ホログラムの設計手法を新たに開発した.その手法は,計算機ホログラムを構成するバイナリ格子の位相シフトにもとづいた.環状ビームのサイドローブの低減について,提案手法の有効性を有機薄膜フィルムのフェムト秒レーザー加工の効率化により,実験的に実証した. 環状ビームにより生成された収束衝撃波を生細胞に確実に作用させるためには,レーザー照射前に細胞の表面位置を予め知っておく必要がある.このことは,安全で正確な遺伝子導入につながる.細胞の表面位置を検出するために,レーザー照射系にレーザー共焦点顕微鏡から構成される表面位置検出のための光学系を導入した.実験結果より,昆虫の培養細胞(Sf9)の表面位置を検出できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画において,環状ビームの設計や光計測系の構築に関して,おおむね順調に進捗している.一方で,細胞培養の環境構築に関して,遺伝子組み替え実験の申請や,培養細胞を安全に扱うための実験室の整備を含む事前準備により,当初の計画よりも後ろにずれ込んだ.そのため現状では,培養細胞を保管できる環境は整っているが,培養細胞を準備する環境は整っていないため,宇都宮大学農学部の協力により実験サンプルを提供頂いている.上記のように計画に一部遅れが出ているが,培養細胞に対して表面位置を検出し,環状ビームを照射するための基本的な実験系は構築できた.
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今後の研究の推進方策 |
前年度末に引き続き,細胞培養のための環境構築を行うことで,実験サンプルを簡便で素早く準備できるようにする.このことは,2年目の研究計画にある遺伝子導入を効率化するレーザー照射パラメーター(光エネルギー,パルス幅,収束応力波の焦点位置)の探索の様な繰り返し実験に必須となる.また,音響センサープローブを用いた収束応力波の強度の定量評価や遺伝子導入効率を指標として,そのレーザー照射パラーメーターの探索にフィードバックする.遺伝子導入効率の具体的な評価について,標的細胞への外部遺伝子の導入の有無を可視化するために,緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子をコードしたプラスミドDNAを用いる.導入が成功すれば,細胞が緑色に蛍光発色する.また,レーザー照射による細胞生存の有無を可視化するために,核染色液を用いる.核染色液は,生細胞の細胞膜は透過せず死細胞にのみ入り込み赤色に蛍光発色する.これらの蛍光試薬を用いた可視化技術により,遺伝子導入効率と細胞生存率を評価し,従来の単一集光ビームを用いた手法と比較する.
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