本研究の目的は,単一の生細胞への安全で高効率な外部遺伝子導入法の開発である. 当該年度は,光学系や生物試料の収差による集光ビームの劣化を防ぐために,人工知能(AI)による補償光学を実装した.レーザー照射における波面収差は,ビーム照射領域の分解能やビーム照射により誘起される衝撃波の圧力を低下させるため,その補正は重要である.その補償光学により,収差が約1/10に低減された. また,前年度に実装した光干渉断層法(OCT)の実験系における性能評価と,試料の表面位置の検出が実証された.OCTは,機械的走査を必要とせず,対象の断層画像をシングルショットで計測できることが特徴であるため,計測のスループットが高い.そのため,遺伝子導入対象となる標的細胞数が膨大である場合に,本手法は有効となる. 構築したOCTの深さ方向の計測分解能は15ミクロンであった.また,その計測精度は±2.5ミクロンであった.OCTを用いることで,レーザー照射における対象の光軸方向の表面位置のその場計測に成功した. 培養細胞の3次位置を検出した後,対象の位置に応じて適切にビームを照射することが重要である.そのため,計算機ホログラムを用いた3次元ビーム照射法を確立した.生成された3次元ビームは,通常,各ビーム強度にばらつきが生じるため,そのばらつきを補正するための新規なホログラム設計法を提案した. さらに,本研究課題に関連するレーザー誘起衝撃波の応用展開を探索するために,例として,昆虫の培養細胞(Sf9)の細胞接着力を評価するための実験を行った.提案手法の応用展開を探ることは,本技術が確立された後の波及効果を考察する上で重要である.結果より,照射するレーザービームの強度の増加に応じて衝撃力が増加し,細胞接着が容易に剥離される傾向が観測された.
|