好熱性細菌由来の光受容体ロドプシンを遺伝子組み換え大腸菌を用いて発現させ、高純度精製したのち、従来のマルチチャンネルロックインアンプを用いた時間分解吸収スペクトル測定を行った。サブピコ秒領域での超高速な吸収スペクトル変化と、それに重畳した吸収スペクトルの変調を確認した。これは近縁種のロドプシンでも報告がある、瞬間的な光励起状態形成と中間状態へ分子振動を伴い緩和する様子と同様の変化である。しかし、本実験で用いた非線形光学課程による波長変換による可視光超短パルスレーザー特有の強度ゆらぎや、高強度レーザーパルスによる光退色で吸収スペクトルが変化する場合が多く、再現性が取れず詳細な解析には至らなかった。 この問題を解決するために本研究課題で新たに開発したシングルパルス分光計測と高速時間掃引ポンプ・プローブ分光法を組み合わせた計測装置を、この従来の検出器と置き換える形で組み込む作業が概ね完了した。現時点では、取得した大量のスペクトルデータを解析するプログラムを開発しており、これが完了すればパルスごとのゆらぎもすべて計測し、計算による補正を行うことが可能となる。 また、現在対象としている好熱性細菌Thermus oshimaiと同属のThermus thermophilusや 近縁種のXantho rhodopsin、 Gloeobacter rhodopsin、さらにはThermus oshimaiの発色団周辺の立体構造を変化させたキメラ種の発現検討を並行して進めた。これらを網羅的に比較測定することで、分光測定で得られる情報以上のタンパク質高次構造の動態を明らかにする。 研究期間全体を通し、遺伝子工学分野の技術を新規に自ら習得し、分光分野に特化した試料調整が可能となった。このタンパク質分子の操作技術と新たな時間分解分光手法の開発の両面から独自手法による動的構造解析を行う研究基盤が得られた。
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