研究課題/領域番号 |
18K14148
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
馬越 貴之 大阪大学, 工学研究科, 助教 (00793192)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 近接場光学顕微鏡 / 高速原子間力顕微鏡 / プラズモニクス |
研究実績の概要 |
本研究は、ビデオレートで撮像可能な近接場光学顕微鏡を開発することを主たる目的とする。計測装置のプロトタイプは完成しているため、当該装置を用いて高速近接場イメージングを試み、数秒オーダーの撮像速度で近接場光学像を取得できることを確認した。また、タイムラプスイメージングで蛍光分子のクエンチング現象のダイナミクスを近接場光学観察することにも成功した。これらの成果をまとめ、国内学会・国際学会合わせて数回ずつ、また学術論文1報を報告した。 その他にも、金属探針の作製技術最適化にも取り組んだ。金属探針は探針先端でのプラズモン共鳴(自由電子集団振動)によって近接場光を生成させるため、近接場光学顕微鏡において非常に重要な役割を担う。本研究では、カンチレバー先端に金属ナノロッド構造を作製する手法を開発した。電子線デポジションと金属スパッタリングによって作製可能であり、デポジションやスパッタリングの時間に応じてナノロッド構造の長さや太さを制御することもできる。また微細加工技術を本作製の軸にしているため、作製再現性も高い。様々な構造条件(長さ・太さ・金属種)で電磁場計算を行い、高強度な近接場光が得られる最適条件を見出した。 近接場蛍光測定における実験条件も最適化した。入射光を高強度にすると、高いフォトン数が得られるが、蛍光分子がすぐ退色してしまう。一方で、強度が低すぎると高速化に十分なフォトン数が得られない。高速化に十分なフォトン数が得られる中で、最も低い入射光強度を見出し、高速近接場蛍光測定に最適な測定条件を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発した高速近接場光学顕微鏡装置を用いて、数秒オーダーの撮像速度で近接場光学像を取得できることを確認した。また、数秒/フレームの速度で近接場タイムラプスイメージングを行うことにも成功しており、実際のダイナミクス観察への一歩を踏み出す結果が得られた。 また、近接場光学顕微鏡において重要な金属探針の作製については、探針先端に非常に高い再現性で光アンテナ構造として理想的な金属ナノロッド構造を作製できる技術を開発することにも成功した。加えて、一度作製したナノロッド構造を除去し再び構造作製するリサイクル法も開発することに成功した。高価なカンチレバーを使い捨てることなく、劣化したナノロッド構造を何度でも再建することができるようになったため、測定環境を大きく向上することに成功した。 測定条件の最適化も行い、蛍光試料においては、入射強度が高すぎるとすぐに退色が起きてしまい、一方低すぎると十分なフォトン数が得られないことが分かり、それを踏まえて高速近接場蛍光測定に最適な入射高強度を見出すことに成功した。 ただし、以上の最適化を重ねてきたが、未だに高速近接場測定の再現性が高くなく、様々な点から改良を加える必要があると考えられる。金属探針は再現性高く作製することができているが、安定した近接場増強効果が得られない。例えば、生理条件下では金属イオンや様々な分子との相互作用が発生し、金属探針を劣化させてしまっている可能性もあるので、この点に関しては詳細な検証が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは測定再現性の向上に取り組む。金属探針の構造を精密かつ再現性高く作製できる技術は開発できているため、それ以外の点に原因があると考えられる。一つは、液中測定中に金属探針が劣化してしまう可能性である。ナトリウムイオンは、銀探針と強い親和性を示すため、他の汚染物質からの保護膜として機能することが知られているが、濃度が高すぎると銀自体を探針から剥がしてしまう。生理条件下で用いられる100 mM程度の濃度が、高すぎないかを検証する。また、ナトリウムイオン以外に、シリカコートやクロロベンゼンコートなどの保護膜の利用も検討する。また、科学的安定性の高い金探針の利用も検討する。 また、さらなる高速化を目指し、レーザースキャン機構の導入も行う。現在は、固定された入射レーザーフォーカス内を金属探針が高速走査する機構になっているが、これではフォーカスの中心から金属探針がずれてしまい常に高い増強度を維持できない。また、視野も制限される。ガルバノミラー等の機構を組み込み、入射レーザーも金属探針と同期走査することによって、高い増強度の維持や、視野の拡大へつながると期待する。 上記項目が完了すれば、実際の試料観察へと展開する。細胞膜モデルとして脂質二重膜を用いて擬似脂質ラフトのダイナミクス観察などへと応用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
より高性能な観察用の顕微カメラが必要になったことや、顕微鏡筺体の修理が必要になったことにより、それらに費用を充てる必要があったため。また、それらによる研究の遅れのため、当初購入予定であった備品を来年度以降へと使用計画を変更する必要があったため。必要となった顕微カメラや顕微鏡筺体修理費用は、カンチレバーのリサイクル法開発により軽減できた分で補填できる予定である。今年度購入予定であった備品も合わせて来年度に購入することで、来年度も計画通り遂行する。
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