研究課題/領域番号 |
18K14151
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
小林 弘和 高知工科大学, システム工学群, 准教授 (60622446)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グイ位相 / 光渦 / 動径モード / 空間位相変調器 |
研究実績の概要 |
本年度はグイ位相による強度分布の回転と、動径モードを用いた回転角の増幅を実験的に検証した。光源として波長633nmのHeNeレーザ光を用いて、動径モードp=0の光渦は光渦リターダと呼ばれる素子を用いて生成を行なった。動径モードpの生成については、当初は特注の光渦リターダを用いて動径モードを生成する予定であったが、より高精度に動径モードを生成するために空間位相変調器(SLM)を用いた。SLMの位相ホログラムは光波の振幅と位相の両方を制御できるように工夫を行なった上で最適化を行ない、非常に精度良く動径モードを生成することができた。結果としてグイ位相による強度分布の回転角と動径モードによる増幅を実験的に観測することに成功し、理論曲線とも良く一致する結果となった。これらの結果は国内学会で発表済みである。 特に動径モードを用いた回転角の増幅については次年度以降のグイ位相によるドップラーシフトの観測へと繋がる非常に重要な結果である。このグイ位相によるドップラーシフトは通常の線形ドップラーシフトとは符号が逆であるため、吸収分光などにおけるドップラー広がりを打ち消す効果が期待できる。ただし、線形ドップラーシフトを打ち消すためには非常に大きなグイ位相の変化が必要となるため、高次の動径モードの生成と高いNAを持ったレンズによる集光が必要となる。しかし、ラゲールガウスモードは元々、ビームがほぼ平行に進行する近軸近似に対して成立する伝搬解であるため、高いNAのレンズで絞った場合にグイ位相の効果が大きなドップラーシフトとして観測可能であるかどうかは不明であった。そこで本年度はFDTDによる動径モードの伝搬シミュレーションも行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、動径モードによる回転角の増幅まで観測ができたため、おおむね順調に推移している。ただし、シミューレーション結果から、線形ドップラーシフトをグイ位相のドップラーシフトで打ち消すことは難しいことがわかったため、次年度以降の計画の修正が必要である。以下は進捗状況の詳細である。 最初に、動径モードp=0の光渦(方位角モードl=2)と通常の基本ガウシアンモードの重ね合わせを生成し、グイ位相により強度分布が回転する様子を実験的に観測した。まず633nmのHeNeレーザと光渦リターダを用いてシングルパスで安定に重ね合わせ状態を生成する実験系を考案した。生成した光ビームをレンズで集光し、CCDカメラを伝搬方向に移動させながら観測した強度分布を解析することで回転角を計算した。結果として、理論通り逆正接関数(arctan)に従う強度分布の回転を確認し、グイ位相を直接的に観測することに成功した。 次にSLMを用いて動径モードpを持つ光渦を生成した。HeNeレーザ光を光渦生成の位相ホログラムを表示したSLMに入射し、レンズとピンホールで構成された空間フィルタを適用することで所望のモードのみを抽出した。p=1~5の動径モードの生成を行なうために、動径モードの位相分布だけではなく振幅分布も加味した位相ホログラムを作成して最適化を行なった上で、基本ガウシアンとの重ね合わせ状態を生成し、強度分布の回転を観測した。結果としてpに比例してグイ位相による回転角が増大することが実験的に確認された。 最後にmeepというフリーウェアを用いて、FDTDによる動径モードの伝搬シミュレーションを行なった。残念ながら線形ドップラーシフトを打ち消すほど大きなグイ位相によるドップラーシフトを発生することは困難であり、ドップラーシフトの低減に留まることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに動径モードp=5までの光渦の生成および強度分布の回転を実験的に観測することができたため、この結果を英語論文として投稿する準備を現在進めている。次に、より高次の動径モードの生成を精密に行なうことを目指す。現状では動径モードp=10程度までの生成は確認できているが、その生成精度は高くはない。さらに高次モードを生成するために必要となるSLMの位相分布の最適化を行なっていく。具体的には入射ビームのビーム径とSLMによって生成する動径モードのビーム径を変化させながら、CCDを用いて強度分布を観測し、理論的な強度分布と比較することで最適なビーム径を決定する。更に、生成した高次動径モードを用いて、吸収分光におけるドップラー広がりの低減が可能であることを示していきたい。線形ドップラーシフトを完全に打ち消すことは不可能であっても、低減することは可能である。実際の実験では、ガラスセルに封入されたガス(ガス種については現在選定中)にレーザ光を照射して、焦点位置での光吸収に伴う蛍光のみを側面からレンズを通して観察する。この時、通常のガウシアンビームではドップラー広がりにより広がった吸収特性が確認される。しかし、高い次数の動径モードを入射した場合、グイ位相によるドップラーシフトの効果により、ドップラー広がりが減少することが期待される。グイ位相によるドップラーシフト自体、これまで観測された例はないため十分に大きな成果として期待できる。また、シミュレーションの結果として、複数の動径モードを重ね合わせ、焦点付近において「superoscillation」と呼ばれる位相の急峻な変化を誘起することでグイ位相によるドップラーシフトを増大することが可能であることもわかっているため、実験的な観測可能性を検証しながら導入するかどうかを決定していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であった特注の光渦リターダを購入せず、代わりに別途用意した空間位相変調器を使用したため次年度使用額が生じた。次年度に予定している吸収分光の実験の消耗品費用として使用する予定である。
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