研究課題/領域番号 |
18K14154
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
豊田 新悟 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (30802730)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 磁気キラル効果 / 非相反方向二色性 / マルチフェロイクス / 逆光学効果 |
研究実績の概要 |
物質が自身の鏡像と重ならないとき、その物質はキラルである。鏡像関係にある右手系物質と左手系物質は自然界に同程度存在すると思われるが、生体内のアミノ酸は一方の鏡像異性体のみ存在する。この現象はホモキラリティの問題と呼ばれ、生命の起源にも関係することから、19世紀から盛んに議論がなされてきた。現在までに、円偏光照射や磁場印可によってキラリティが誘起された可能性が提案されているが、地球上に円偏光源や強い磁場が存在しないため、いまだにその起源に関して議論がつづいている。そこで本研究では、逆磁気キラル効果という新たなキラリティ誘起の方法を提案する。逆磁気キラル効果では無偏光を照射するだけでキラリティを誘起することが可能になり、磁場と円偏光を必要としない。無偏光ならば地球上のどこにでも存在するため、ホモキラリティの起源に関する議論に多大な影響を与えると考える。逆磁気キラル効果の実験的な観測例はまだないことから、これを初めて観測することを本研究の目的とする。 本年度はポンププローブ分光法を用いて逆磁気キラル効果を検出することを目指した。この現象では無偏光を入射することによって磁化が誘起され、反対方向から光を入射すると、逆方向に磁化が誘起されることが予想される。さらに対象物質のCuB2O4では磁化方向によってキラリティが変化する特殊な性質を持つ。したがってポンプ光の入射方向を反転したときの、プローブ光透過率変化を検出することにより、逆磁気キラル効果の観測ができると考えた。測定を行った結果プローブ光の透過率が変化することが確認されたが、1ピコ秒以内に透過率変化が緩和した。このような高速な緩和の場合、ポンプ光の入射方向を逆転すると信号が試料内で時間平均されて打ち消されてしまうという欠点がある。そのため、ポンププローブ分光法を用いて逆電気磁気光学効果の証拠とするのは困難であるという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はポンププローブ分光法による逆磁気キラル効果の検出を目指した。実験を行った結果、ポンプ光とプローブ光の進行方向が同一の向きの時には、プローブ光の透過率が変化することが確認され、1ピコ秒以内に透過率変化が緩和した。一方、ポンプ光とプローブ光の進行方向が逆向きの時にはプローブ光の透過率変化は観測されなかった。ここで観測されたポンプ光入射方向に依存した透過率変化は、逆磁気キラル効果に由来している可能性もあるが、その他の要因も考えられる。例えば、ポンプ光とプローブ光が互いに逆向きに進行する場合には、試料内での透過率変化が時間平均されてしまう。厚さが100μmの試料を用いると1ピコ秒程度の透過率変化が時間平均されるため、今回のような高速で振動する成分は観測することができない。そこで来年度はポンププローブ分光法を用いずに、発光測定によって逆磁気キラル効果の観測を行うことを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度はポンププローブ分光法を用いて逆磁気キラル効果の観測を目指した。しかしながら、ポンププローブ分光法では、ポンプ光とプローブ光の進行方向が逆向きの場合には、信号が時間平均されてしまうため、高速で振動する信号は観測できないことが判明した。そこで来年度はポンププローブ分光法を用いずに、発光測定によって逆磁気キラル効果の観測を行うことを計画している。逆磁気キラル効果が生じれば、励起光照射によって物質中にキラリティが生じる。すなわち光の進行方向によって磁化およびキラリティを制御することができる。物質中のキラリティは自然円二色性によって観測することができるので、これによって逆磁気キラル効果の観測を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
測定手法を予定していたポンププローブ分光法ではなく別の測定手法に変更したため。未使用額は次年度の光弾性変調器の購入に使用する予定。
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