情報機器の増大に伴い、非熱的に高速で情報(磁化)を制御する方法が要請されている。その解決策の一つに、超短パルス光照射による磁化制御がある。しかし一般に磁化制御には円偏光照射が必要で、これには偏光素子が不可欠となりデバイスの小型化が困難である。この常識に反してキラルな物質中では、無偏光照射によって磁化を誘起する逆磁気キラル効果が予想されている。 本研究ではポンププローブ分光法を用いて逆磁気キラル効果を検出することを目指した。対象物質のCuB2O4では磁化反転により光透過率が変化するため、ポンプ光の入射方向を反転した際のプローブ光透過率変化の差を検出することで、逆磁気キラル効果の観測が可能だと考えた。しかし昨年度の研究の結果、ポンプ光とプローブ光が互いに逆向きに進行する場合には、試料内での透過率変化が時間平均され、透過率変化を観測できないという課題が判明した。この問題は厚さの薄い試料を用いれば解決するが、その場合透過率変化が小さくなり磁化の検出が困難になる。そこで今年度は、薄い試料でも磁化反転により大きな信号強度の変化が期待される現象の探索を行った。具体的には、磁化の反転に伴い第二次高調波発生(SHG)強度が変化する非相反SHGの研究を進めた。これは磁気双極子遷移と電気双極子遷移の干渉によって生じるため、両者の大きさが同程度の時に巨大化するが、一般的に電気双極子遷移の方が圧倒的に大きい。そこで磁気共鳴効果を用いれば磁気双極子が増強され、電気双極子遷移と同程度の大きさを持つことを考案した。実験の結果、Cu2+イオンのd-d遷移に対応する磁気共鳴においてSHG強度が97%も変化する巨大非相反SHGの観測に成功し、結果を論文誌に投稿中である。なお非相反SHGは試料の厚さに関係なく、磁化反転に伴い巨大な信号変化を示す。今後は巨大非相反SHGをプローブとして逆磁気キラル効果の検出を試みる。
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