研究実績の概要 |
本研究では、光検出器・太陽電池の性能向上に期待されている光電流の新機構「シフト電流」について、そのサブピコ秒ダイナミクスや伝播の計測を行った。高純度CdSの励起子吸収(2554 meV)に共鳴したフェムト秒レーザーパルス励起(c軸偏光, 温度2 K)によって生じた過渡的光電流からアンテナ放射されたTHz波形を解析することによって光電流のダイナミクスを明らかにした。研究初年度に出版された強誘電半導体SbSIやSn2P2S6における光電流ダイナミクスの結果と同様、本物質においてもサブピコ秒光電流ダイナミクスはシフト電流に特徴的な瞬時応答ピークと負符号の電流(緩和時間~0.9 ps)の和でフィットされた。光電流振幅の励起光子エネルギー依存性は、A励起子吸収とA,B,C伝導帯の和とよく一致することや、入射偏光・パワー依存性がシフト電流の理論と整合性が高いことを見出した。これは、最新のシフト電流の理論を、励起子励起においてはじめて実験検証したものである。また、シフト電流の第一原理計算を比較することにより、励起子励起・伝導帯励起によるシフト電流が実際には、スピン軌道相互作用に大きな影響を受けていることが明らかになった。スピン軌道相互作用は従来のシフト電流の理論ではほとんど取り入れられておらず、本研究はその重要性を提起した。 これらのCdSにおける励起子励起でのシフト電流の超高速ダイナミクスの研究結果は、英文物理論文誌に投稿準備中である。また、関連してシフト電流の実験研究の解説記事を共著している[日本物理学会誌75, 154]。 本実験研究の結果はシフト電流の理論を発展させるものである。有機・無機の幅広い物質群で中赤外域から近紫外域に至るまで光電流のダイナミクスやその波長依存性の包括的研究が行えるようになり、国内外の研究者と共同研究を進めている。
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