研究課題/領域番号 |
18K14159
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
小川 達彦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (20632847)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 統計崩壊 / 準位密度 / 角運動量 / 二次粒子 |
研究実績の概要 |
本年度は仏国CEAへの留学と重複し、原子力科学研究所のタンデム加速器を使った実験ができなかったことから、統計崩壊モデルの改良研究を主に進めた。当初研究計画の対象としていた統計崩壊モデルは、粒子放出の遷移強度と、その遷移先の原子核の準位密度を元に、粒子放出確率を決めるWeisskopf-Ewing型モデルであった。しかしCEAにおける研究で、軌道角運動量に依存した粒子放出の透過係数と、準位密度から粒子放出を計算するHauser-Feshbach型モデルの計算方法やそれに必要なデータベースを把握した。またサブアクチノイド以上の質量を持つ核では、粒子放出と競合する反応として核分裂の寄与が重要となるが、核分裂幅や核分裂バリアの見積もり方など最先端の知見を得た。 こうして得られた知見を活用することで、統計崩壊モデルについて以下のことが可能になった。1、Hilaireらが評価した角運動量ごとの準位密度と透過係数を用いて、Weisskopf-Ewing型もしくはHauser-Feshbach型モデルを用いて統計崩壊の粒子放出確率分岐を計算する。さらにKTUYの式を元にして準位密度の殻補正を導入することで、殻効果の大きい核周辺の準位密度の精度向上が図れる。2、サブアクチノイド以上に重い原子核については、核分裂確率の計算精度向上により、粒子放出を起こさず核分裂する確率の計算を正確にでき、統計崩壊の粒子放出量絶対値を高精度化できる。核分裂確率の計算精度向上には、有限レンジ液滴モデルで評価された核分裂バリアや、IAEAの評価した核分裂鞍点での準位密度を用いてBohr-Wheelerの式に導入する。さらに、U-235(n,fission)などの、核分裂確率が精度良く評価されている場合について適用することで、核分裂幅の計算が適正か検証することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験については検出器に付属する信号処理回路を完成させたので、次年度からビームタイムを取得し、実験に取り組むことが可能となった。また一方統計崩壊モデルの改良については、必要となりうる指針や最新の知見を本年度でほぼカバーすることができた。留学と重複したことにより、実施する内容の順序が前後したものの、全体の計画の中で進めるべき内容を着々と進めている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の最優先課題は原子力科学研究所タンデム加速器における実験の遂行である。実験課題の審査は通っているため、次年度は放射線業務従事者登録を早急に進め、管理区域内での作業を行う。年度前半にはスパッタリング機を用いたターゲット材の精製を行い、適正な純度・厚みのターゲット生成を行う。まずは比較的作成が容易な金ターゲットを作成することとし、余力があれば同位体濃縮タングステンターゲットなど、扱いの難しいターゲット生成にも取り組む。下半期にはビームタイムを確保し、信号取得までを目指す。それにあたっては、100 MeVのC-12イオンとAuターゲットの核子移行反応で励起核を作り、励起状態の特定と中性子の収量測定を成功させることが最優先課題となる。可能であれば、荷電粒子検出器を設置し、陽子や重陽子などの収量測定も狙う。それらの結果次第で、実験系の改善を行い、信号処理回路や検出器のパラメータ調整や、回路の構成修正を行う。一方で、使えるデータについては早速統計崩壊モデルの検証に用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は留学していたため、購入に関する手続きができなかったことと、実験と理論研究の順番が逆転したこともあり、予算の執行を控えた。実験が始まれば、その遂行のために当初計画通り予算執行していく予定である。特に配線や信号処理回路、ターゲット材、実験データの記録装置の購入や、モデル開発・実験結果処理のための計算機更新費用などがその主な使途になる予定である。
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