2011年3月に発生した福島第一原子力発電所(1F)事故では、炉心溶融や、炉心溶融物とコンクリートの相互反応(MCCI)が生じ、燃料デブリが生成した。燃料デブリ取出し等のため炉内状況を把握するには、事故進展を推定することが必要であるが、事故当時の温度等の測定データは限られており、詳細な推定は困難である。本研究では、MCCI生成物中に生成すると推定するジルコン(ZrSiO4)に着目し、ジルコン内部の微量元素の濃度分布から事故当時のMCCIで生成した溶融プール中の酸素分圧や温度の推移を解析する技術を開発する。2019年度は天然ジルコンの液中での溶解・析出挙動の把握、フラックス法によるジルコン単結晶の合成及び性状評価を行った。 粒径70μm以下まで粉砕した天然ジルコンをpH1の希塩酸、pH7の超純水、pH13の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、走査型電子顕微鏡を用いてジルコン表面を観察した所、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した試料においてのみ表面に針状結晶を確認し、その他の試料においては優位な変化は確認されなかった。また、透過型電子顕微鏡を用いて針状結晶の原子配列や、電子線回折により結晶構造を確認した。以上より、ジルコンが水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した際は、針状結晶の析出により溶解が抑制される可能性が考えられる。 浸漬試験に用いるジルコン単結晶を得るため、フラックス法によりジルコン単結晶の合成を行った。坩堝の材質や加熱温度、フラックス、加熱雰囲気等を検討した結果、700μm程度の正八面体形状の単結晶が得られた。また、単結晶の表面を原子間力顕微鏡で観察し、明瞭な成長縞を確認した。これより、合成したジルコン単結晶を液中に浸漬させ、成長縞の形状の変化を観察することで、精緻な溶解速度分布が測定可能となる見通しが得られた。
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