研究課題/領域番号 |
18K14168
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安川 和孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (00757742)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 海底鉱物資源 / レアアース / 深海堆積物 / 多変量解析 / 同位体分析 |
研究実績の概要 |
本研究は,有望な新規レアアース資源「超高濃度レアアース泥」の生成機構の解明を目的とする.本研究では,超高濃度レアアース泥が分布する南鳥島周辺の深海堆積物を対象に,(1) 独立成分分析とクラスター分析を組み合わせた高次元データ解析を行い,超高濃度レアアース泥を含む全堆積層の化学的特徴を客観的かつ網羅的に分離・抽出する.さらに,(2) 上記統計解析を基に,各堆積層の化学的特徴を代表する試料群を選定して多元素同位体分析を行い,各層が記録する具体的な地質現象 (海洋循環変動や物質供給源の変遷など) を読み解く.上記 (1) 及び (2) の結果を統合して,超高濃度レアアース泥を特徴づける物質や プロセスの組合せを解明し,それらを説明可能な海洋学的・堆積学的メカニズムを考察する. 2018年度はまず,2017年12月~2018年1月に南鳥島周辺で実施されたKM17-14C航海 (研究代表者も乗船) で採取された5本の堆積物コアから採取した133試料について全岩化学分析を行った.これと過去の研究で蓄積されたデータを統合し,総計1,646試料×41元素の濃度値から成る大規模・多変量データセットを構築した.このデータセットに独立成分分析及びクラスター分析を適用し,5つの独立な起源成分と10個の地球化学的クラスターを抽出した.このアプローチは,レアアース泥を含めた遠洋性粘土の化学組成データ解析として過去最大規模のものであり,遠洋性粘土に内在する地球化学的バリエーションの網羅的把握という点で新しく重要な意義を持つ. 次のステップとして現在は,抽出した10クラスターの中心にあたる試料を各クラスターの代表試料とみなし,その砕屑性成分を分離して,同位体分析作業に着手している.今後,これらの代表試料についてSr, Nd, Pbなどの同位体比を測定し,物質供給源の変遷を考察する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,申請後に実施されたKM17-14C航海で得られた新規コアも対象に加えた方がより包括的な研究になると判断したため,当該新規コア試料の化学組成データの取得を年度前半に行った上で,統計解析に着手することとした.データ解析は順調に進捗し,当初計画の約1,500試料を上回る1,646試料×41元素の大規模・高次元データセットから,統計学的根拠に基づいて10試料を選定することができた.その後は,当初予定通り,2018年度内に海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野が所有するクリーンルームにおいて同位体分析のための前処理作業に着手し,現在も試料処理を進めているところである. なお,申請時点の当初計画には含まれていなかったが,化学組成データの多変量統計解析に先立ち,オリジナルデータからの考察として,次世代の低環境負荷技術の鍵を握るスカンジウムがレアアース泥に多く含まれることに着目し,その資源ポテンシャルを定量的に議論した論文を2018年9月にOre Geology Reviews誌にて発表した. 以上の進捗状況・成果公表状況を踏まえ,本研究は「(1) 当初の計画以上に進展している」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,試料溶液のカラム分離等の前処理作業を進め,2019年度前半から半ばにかけて,南鳥島周辺堆積物の地球化学的クラスターを代表する10試料のSr-Nd-Pbの多元素同位体比データセットを構築する予定である.このデータに基づき,研究対象海域への供給物質の変化等を読み解く.その結果を踏まえ,前年度の統計解析によって抽出された独立成分や各クラスターの地質学的意味を考察する.そして,プレート運動に伴う堆積場の変化等も念頭に置きつつ,超高濃度レアアース泥の生成に関与した環境因子を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,申請段階では未採取であったKM17-14C航海のコア試料を新たに研究試料として追加した.その全岩化学分析を本年度前半において新規に行ったため,同位体分析の前処理作業への着手が当初予定より後ろ倒しとなった.そのため,当初計画では2018年度内に購入予定であった同位体分析前処理 (カラム分離) 用のイオン交換樹脂等の購入を2019年度に回すこととした.従って,次年度使用額 (B-A) は2019年度の物品費に算入する予定である.
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