研究課題/領域番号 |
18K14181
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水上 渉 大阪大学, 先導的学際研究機構, 特任准教授(常勤) (10732969)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 多参照理論 / QM/MM / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
2018度に引き続き、カロテノイドの励起状態ダイナミクスを明らかにするために、その複雑な電子状態をバランスよく記述できる理論の開発に取り組んだ。 まず、昨年度の成果として得られた量子古典混合アルゴリズムを発展させ、i) 軌道最適化ユニタリー結合クラスター法(OO-UCCD)の開発、 ii) 多参照摂動論の一つNEVPT2と変分量子固有値法(VQE)との接続、iii) VQEに対する高次の解析的微分法の基礎理論の構築、iv) VQEに対する解析的1次微分の実装をおこなった。i)とiv)の成果を用いて構造最適化、Nudged Elastic Band (NEB)を用いた化学反応経路探索と第一原理分子動力学計算を実現した。 これは知る限り、VQEを用いた多原子分子の構造最適化及び遷移状態探索計算となっている。次に、第一原理電子状態理論を用いたタンパク質のような大規模な生体分子の構造最適化を効率よくおこなうための手法も開発した。具体的には、青木らによって開発されたElongation法と呼ばれる大規模系に向けた低スケーリング法と、マルチスケール・マルチフィジックスな手法であるQM/MMとの融合を試みた。 開発した手法 ELG-IMEE は、QM/MM法をElongation法の計算途中段階で用いるアルゴリズムとなっている。従来のElongation法よりも生体分子に対する安定した構造最適化がおこなえることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していたUnsold近似を用いた多参照摂動論については、通常の量子化学計算で用いられるものとは異なる2電子積分計算プログラムが必要となり、その実装が障壁となって数値実験をおこなえる段階にまで達していない。一方で、昨年度の成果として得られた量子古典混合アルゴリズムの開発については、順調に発展させることができている。さらに、生体分子の構造最適化のための新しい計算手法の開発もおこなえた。このように計画以上の成果の両方が得られてはいるが、主計画に遅れが生じていことから進捗状況は「やや遅れている」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は量子コンピュータ・シミュレータを用いたVQEの実装をさらに発展させQM/MMなどと接続し、カロテノイド分子への適用できるように研究をすすめる。また、実装が遅れているUnsold近似を用いた多参照摂動論についても引き続きおこない、数値検証と応用を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
開発手法を用いた本格的な計算にはいれていないため、大型計算機の利用量が当初より減ったことが未使用額ができた主な理由である。手法の整備がなされてから、この未使用額は開発したプログラムのプロダクションランに用いる予定である。
|