2021年度も前年度に引き続き、複雑な電子状態をバランスを良く記述するための電子状態理論の開発に取り組んだ。これまでに変分量子固有値法(VQE)と呼ばれる量子古典ハイブリッドアルゴリズムを基盤として、軌道最適化ユニタリー結合クラスター法(OO-UCC)やVQEに対する解析的微分法の開発といった成果が得られている。本年度はこの成果を本研究課題のターゲット系である光化学反応に適用できるよう開発をすすめた。具体的には状態平均VQEの解析的微分を開発し、光化学反応の追跡を可能とした。また、液体論に基づく3D-RISMとVQEの接続にも着手し、QM/MMとの接続もあわせて、現実的な環境場の考慮が可能となった。また、VQEと変分量子モンテカルロ法(VMC)との類似性に着目し、VMCによるニューラルネット波動関数を用いた多参照電子状態理論の開発もおこなった。ニューラルネットワークとしては、制限ボルツマンマシンを用い、量子ビット表現とフェルミオン表現を変換する方法を用いることで、スピン系のための波動関数モデルをシームレスに電子系に適用している。開発した方法は固体系にも適用し、ニューラルネットワーク波動関数としてははじめて複数の励起状態計算んに成功した。最後に、励起状態ダイナミクスの記述のために、多参照電子状態理論を用いた多状態のための機械学習ポテンシャルの応用に取り組んだ。ただし、環境場の考慮までできる段階には達成しておらず、これは今後の課題となった。
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