研究実績の概要 |
キセノンマトリックス中に分離した水分子の赤外吸収スペクトルの時間変化を観測し、転換率の温度依存性を5-10 Kの温度範囲で測定した[山川他, 分子科学討論会, 2018]。同時に、水二量体による吸収ピークが僅かな時間変化を示すことを見出し、二量体中の水分子の核スピン転換を初めて観測した[Yamakawa et al., HRMS, 2018]。アルゴンをマトリックス種に用いた実験では、重水クラスターのテラヘルツ・赤外スペクトルのアニール温度依存性と希釈率を詳細に測定し、マトリックスの効果を取り入れた量子化学計算との比較から、クラスター中の分子間振動モードを決定した[Nasu et al., HRMS, 2018]。水分子と他分子との異種クラスターにおける核スピン転換の測定を見据え、水素[山川他,表面真空学会学術講演会, 2018]、アンモニア[Nagamoto et al., HRMS, 2018]、メタン分子[Sugimoto et al., HRMS, 2018]の転換率を測定した。水素については、分極に由来する赤外吸収を観測するため、希ガスの替わりに二酸化炭素をマトリックス種に用いた。オルソ・パラ水素による微弱な赤外吸収を分離して観測し、その時間変化から転換率を測定した。さらに、吸収ピークの位置から水素が受ける電場の大きさを導出した。また、結晶メタンの赤外スペクトルを測定し、結晶中でほぼ自由回転する分子種による振動回転吸収を検出した。吸収ピーク強度の時間変化を解析したところ、1つの指数関数では再現できず、2つの指数関数の線形結合で表されることを見出した。これは、オルソ・メタ・パラ異性体間の転換に起因しており、このように3種の異性体間の核スピン転換を観測した例は、本研究がはじめてである。
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