研究実績の概要 |
本研究で開発・拡張した超高真空下テラヘルツ(THz)・赤外吸収分光装置について、英文論文にまとめ[Yamakawa et al., JCP, 2020]、和文論文でも解説した[山川他,分光研究,2020]。 分子クラスター中の核スピン転換における、余剰回転エネルギーの散逸機構を調べる上で、クラスターの構造や分子間振動モードの情報は必要不可欠である。代表者は、THz・赤外吸収分光と量子化学計算により、これまで統一的見解が得られていなかった水2量体の全ての分子間振動モードのTHz吸収を同定した。また,3, 4量体の構造対称性がマトリックス中では低下することを見出し、これらの主要な分子間モードのTHz吸収も決定した。この成果は、地球における放射エネルギー収支という観点からも大きな意義があり、英文論文で報告した[Yamakawa et al., JCP, 2020]。 Krマトリックス中で、H2Oの核スピン転換速度の温度依存性を測定し、代表者が以前に提案したエネルギー緩和モデルの妥当性を証明した[Yamaguchi et al., ICAVS10, 2019]。二原子分子と多原子分子の核スピン転換は、別々のグループにより研究されてきた経緯があり、その機構については未だ統一描像が得られていない。この問題を打破するためには、同一のマトリックス中で両分子の核スピン転換を測定することが有力である。代表者は、依頼を受けた英文総説において、H2、H2O、CH4の核スピン転換研究について自らの成果を含めて解説し、上記の点を指摘した[Yamakawa et al., JPSJ, 2020]。さらに、代表者はマトリックス中におけるH2の核スピン転換を検出することに初めて成功し、欧米の学術誌に投稿した[Yamakawa et al., PRL (under review)]。
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