研究課題/領域番号 |
18K14183
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大越 昌樹 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (00760860)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 二次電池 / 電解液 / 溶液構造 / 超濃厚電解液 / 分子シミュレーション / 理論化学 / 分子動力学 / 量子化学 |
研究実績の概要 |
本研究は、新奇電解液として注目されている超濃厚電解液を主たる研究対象として、電解液の組成(電解質・溶媒種・濃度)と物理化学的性質との関係を、理論化学シミュレーションを用いて明らかにすることを目的としている。 2018年度は、Naイオン二次電池用超濃厚電解液を対象として、アニオン種依存性を検討した。超濃厚電解液にはFSAおよびTFSAという有機アニオンがよく用いられる。FSAとTFSAは互いに類似した分子構造を持つが、電解液としてのマクロスコピックな性質が異なる。我々の既往の研究において実績のある、分割統治型密度汎関数強束縛分子動力学法に基づいて、この差異を検討した。 シミュレーションから、超濃厚電解液ではアニオンを媒介としてキャリアイオン(Naイオン)同士が互いに結合した、ネットワーク様の高次構造を有することがわかった。この構造は超濃厚電解液に特徴的で、希薄な溶液においては見られない。さらに、ネットワーク構造中でFSAがTFSAと比較してキャリアイオンに対する配位性がより高いこと、これを反映してネットワーク構造の動的な揺らぎに起因する配位子交換反応がより早いことを見出した。一方で、1分子レベルでの解析を実施したところ、キャリアイオンとFSAあるいはTFSAとの相互作用は同程度であることがわかった。この結果は、アニオン同士のわずかな化学的性質の違いが1分子レベルでは明確な違いとして現れないにもかかわらず、マクロスケールでは溶液構造の差として現れること示唆している。 2018年度における研究によって、電解液を構成する分子のわずかな変化が溶液のマクロな性質を変化させることがシミュレーションによっても確認された。特にネットワーク構造に着目した解析が、溶液の性質の評価に有用であることがわかった。現在この知見を活かして、溶媒種依存性の検討、電解質の電離挙動の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超濃厚電解液の溶液としての性質と構成する分子の微視的な化学的性質との関係の解析は、概ね当初計画の通りに進んでいる。特に超濃厚電解液の性質の評価方法として、ネットワーク構造に対する解析が有用であることがわかったので、種々の電解質・溶媒種に対する系統的な検討へ展開している。 また、電解液中での電解質での電離挙動については、特に希薄溶液系について重要であることがわかった。超濃厚電解液を主要な対象としていた当初想定とは異なるが、電解液における基礎的な性質として検討すべきであるとの結論に至った。必要な方法論については2018年度中に準備・検討が完了したので、種々の系に対する系統的な検討に着手した。 以上より、全体として概ね当初の計画通りに研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において必要な解析手法およびシミュレーション手法については、2018年度中におおよその目処がたったため、種々の分子系に対する系統的な解析に着手している。 これに際しては多数のシミュレーションを実施する必要があるため、当初計画の通りスーパーコンピュータシステムの利用によって計算資源を確保する。現在、利用するシステムの選定中であるが、特に障害となる研究遂行上の課題はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品の価格等を適切に検討した結果、3,000円程度の未使用額が生じた。不必要な使い切りは行わず、次年度に繰り越すことで有効に活用することとした。
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