本研究では、新奇な液体電解質として注目されている超濃厚電解液を主たる研究対象として、その電解質、溶媒、濃度によって特徴づけられる電解液の組成と種々の物理化学的な性質の関係を、理論化学シミュレーションに基づいて明らかにすることを目的として実施した。2019年度には前年度に得られた示唆に基づいて、Naイオン二次電池用超濃厚電解液におけるアニオン種依存性に関する系統的な解析を実施した。 シミュレーションには、超濃厚電解液で重要となる電子移動・分極をあらわに取り扱うことのできる大規模量子分子動力学法のDC-DFTB-MD法を用いた。超濃厚条件に対応する40%溶液と、通常の二次電池でも用いられる希薄な10%溶液に対して、溶媒構造、溶媒・溶液の配位状態、またそれらの動的変化について解析した。ここで、アニオン種として実験的にもよく用いられるFSAおよびTFSAを検討した。これらは互いによく類似した構造を持つが、電解液としてのマクロスコピックな性質が異なる。 液体構造に対しては、超濃厚条件に特徴的なネットワーク構造が見出された。すなわち、Naイオン同士がアニオンおよび溶媒を通じて互いに束縛しあっている構造が見られた。配位状態をさらに詳細に解析した結果、FSAではTFSAと比較してより密な配位構造をとることがわかった。この要因として、TFSAでは嵩高いトリフルオロメチル基を有しており立体的な反発が重要な寄与をしていることが見出された。 キャリアイオン伝導に対して、配位構造の動的変化およびイオン拡散の観点から検討した。2018年度の結果から示唆されていたように、配位子交換反応が超濃厚条件におけるイオン拡散を担っていることが見出された。定量的な解析を行い、その時定数が数十ps程度であることが見出された。 本研究成果は、国内外の学会にて報告した。また、論文投稿に向けて現在、準備中である。
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