本研究課題では、インフォマティクスの技術を用いることで密度汎関数理論(DFT)における新しい交換相関汎関数を開発することを当初の目的としていた。2018年度に、小規模な基底関数を用いたHartree-Fock(HF)計算で得た電子密度等からCCSD(T)法の完全基底関数で得られる相関エネルギー密度を予測する機械学習型電子相関(ML-EC)モデルを開発した。すなわち、交換相互作用はHF法における交換エネルギーとして記述し、波動関数理論における相関エネルギーを密度汎関数として近似するアプローチを採用した。GMTKN55セットに対する系統的数値検証により、ML-ECモデルが反応エネルギー、反応障壁、イオン化エネルギー、水素結合系の相互作用エネルギーなどに適用可能であることを明らかにした。 ML-ECモデルにおける記述子と目的変数は、当初、すべての軌道を用いて計算していた。2019年度から2020年度にかけて、凍結内殻近似を用いて相関エネルギー密度を計算する方法を検証し、反応エネルギーなどに関して全電子計算に基づくモデルと同等の精度を示すことが明らかになり、目的変数の計算コスト削減により多くの系から学習データを収集できるようになった。 ML-ECモデルの記述子にはHF交換エネルギー密度が含まれる。研究代表者はHF交換エネルギーを半数値積分によって効率的に計算するためのスクリーニング手法を提案しており、この方法がML-ECモデルにおける記述子の計算に適用可能であることを2020年度に明らかにした。さらに、k近傍法やアンサンブル学習により、任意の分子から得られた記述子が学習データの空間に含まれるか判断することに成功した。これらの成果により、高速かつ汎用的なモデルの構築への道が拓けた。
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