本研究は、化合物半導体ナノ粒子を用いたプラズモン誘起電荷分離(PICS)を研究対象としている。2019年度は、可視領域にプラズモン共鳴を示す酸化モリブデンナノ粒子と酸化チタンから構成される固体セルを用いて、PICSに基づく可視領域での光電流および電位応答を観測することに成功した。また、酸化モリブデンナノ粒子のプラズモン共鳴を電気化学的にスイッチングでき、エレクトロクロミック材料として利用できることも見出した。 一方で、昨年度と同様に、金属ナノ粒子を用いた予備実験を行い、PICSに基づく光アノードと光カソードを組み合わせた光電極系や、水酸化ニッケルなどのエネルギー貯蔵材料を導入した光電極を構築することで、光触媒としての性能が向上することを明らかにした。また、比較的サイズの大きい金属ナノ粒子を用いた実験を行っていたところ、種々の膜厚の酸化チタン薄膜上に担持した金ナノ粒子が、プラズモン共鳴とミー散乱に基づく多色散乱を示すことが明らかになった。金のプラズモン共鳴だけでは難しい青色光の散乱も実現できるほか、可視光全域で光散乱が起こるように設計することで、透明投影スクリーンとしての応用も可能となった。さらに、半導体電極を用いることなく、電位を制御した電極上でPICSを駆動し、ナノメートルサイズの領域で金属ナノ粒子を加工する技術を新たに開発した。これらの成果は、化合物半導体ナノ粒子を用いたPICSにつながるだけでなく、従来の金属ナノ粒子を用いたPICSにおいても非常に有意義な知見である。
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