研究課題/領域番号 |
18K14190
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
林 宏暢 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (00736936)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アントラセン / 多量体 / 電荷輸送特性 / 単分子膜 |
研究実績の概要 |
本研究では、広いpi共役系を有する剛直な有機半導体分子と柔らかな部位を組み合わせ、系全体が適度に高い結晶性と自由度を維持することで、結晶性膜並みの電荷輸送特性を示す柔らかい分子集合系を電極上に構築することを目的とする。本年度は、電荷輸送層として、2,6位で連結したアントラセン多量体に着目し、その多量体合成を行なった。この際、多量体化するに従い溶解性が低下するため、通常の手法では合成が難しい。そこで、溶媒に可溶な前駆体に対し、最終段階で光照射によって目的の化合物に変換する「光変換型前駆体法」を用いて、これまで合成が達成されていなかった、3量体以上のアントラセン多量体の合成を行った。 まず、アントラセン多量体(3-5量体)を、市販の化合物から数ステップを経て合成することに成功した。吸収スペクトルを測定したところ、アントラセン部位に由来するpi-pi*遷移に相当する吸収、ジケトン部位に由来するn-pi*遷移に相当する吸収が見られ、470 nm程度の光を照射することによって、対応するアセン化合物へと定量的に変換できると予測された。合成した化合物に対し、脱気条件下、メタルハライドランプを照射することで、光変換反応を行なった。まず、NMRチューブ中の多量体に対して光照射を行ったところ、光照射前に観測されていたピークが徐々に観測されなくなり10分程度で完全にピークが観測されなくなった。これは光反応前駆体が不溶性のアントラセン多量体へと変換されたことを示唆している。次に、多量体のジクロロメタン溶液に対して光照射を行ったところ、n-pi*遷移に相当する吸収がなくなり、光照射前には確認できなかったピークが新たに出現した。さらに、薄膜に対して光照射を行ったところ、同様に光変換反応が進行することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究達成に向けて鍵となる電荷輸送部位の合成に関して、これまでに報告例のないアントラセン多量体の合成ルートの確立に成功した。また、本合成ルートをさらに展開することで、より長いアントラセン多量体の合成が可能であることが示唆された。現在、合成した多量体の単結晶作製と電荷輸送特性評価を検討中である。また、合成した分子系を電極上に担持する手法として、自己組織化単分子膜形成を用いるが、それに必要な基板への吸着部位の合成にも着手しているため、研究計画全体としては概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに確立した合成ルートを発展させ、自己組織化単分子膜形成可能な多量体の合成を進めるとともに、その電荷輸送特性の評価を行う。具体的には、下記を推進する。 (1)さらに長い多量体として、7量体及び9量体の合成を行う。多量化の度合いが、構造・物性・電荷輸送特性に与える影響を評価する。 (2)合成した多量体に基板への吸着部位を導入し、シリコン基板上などに自己組織化単分子膜を形成させる。吸着部位と電荷輸送部位を結ぶリンカーの長さや吸着部位の種類が単分子膜形成に与える影響を評価し、吸着部位の最適化を行う。 (3)得られた単分子膜を用いたトランジスタを作製し、その電荷輸送特性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:目的とする化合物の合成法を早い段階で確立できたため、条件検討に必要と思われた溶媒や試薬を大幅に節約できたため、消耗品の支出が減少した。また、目的化合物の合成ルート確立に伴い、その大量合成と誘導体合成を優先したため、デバイス作製に必要なシリコン基板などを平成30年度中に購入する必要がなくなったため。 次年度使用額の使用計画:合成に必要な触媒・有機溶媒・試薬や、デバイス作製に必要なシリコン基板などの消耗品の購入費、及び、成果発表のための旅費として利用する。
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