研究実績の概要 |
本研究課題では、多環式芳香族化合物であるピレンに対し、長軸対称に電子ドナー・アクセプター基を配置した『双極性長軸対称ピレン誘導体』の系統的合成と、それら誘導体の光物理的性質の解明および生命科学への応用を目的としている。 本年度はまず、長軸対称ピレン誘導体への足掛かりとなる、ピレンの 1, 3-二置換体の合成に着手した。中でも、ビニルピリジニウム基を導入した 13PY と名付けた誘導体は、強力な赤色発光と二光子吸収性を示した。ユニークなこととして、同化合物の異性体(1, 6-二置換体)は生細胞のミトコンドリアを選択的に染色し、その後その場に局在しつづける性質を示したのに対し、13PYは細胞の活力、すなわちミトコンドリアの膜電位に応じて、その局在箇所をミトコンドリア⇔細胞核と可逆的に変化させる性質を示した。したがって、13PYは、ミトコンドリア膜電位のモニタリング能力を有する高輝度二光子励起発光性色素と捉えることができ、その成果は王立化学協会誌 Journal of Material Chemistry B に採択されている。 また本年度の間に、これまでに合成例のない 1, 3-ジブロモピレンの合成法を見出している。1, 6-ジブロモピレン(点対称)や 1, 8-ジブロモピレン(短軸対処)は販売されているにもかかわらず、1, 3-ジブロモピレンは全くの新規であることを考慮すると、これがいかに本研究課題の進展に重要なものであるかを推して知ることができる。今後は、この 1, 3-ジブロモピレンを出発原料として多彩な長軸対称ピレン誘導体の合成し、先述の目的を果たしていきたい。
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