研究課題/領域番号 |
18K14194
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
小林 洋一 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (10722796)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非線形 / フォトクロミズム / 段階的二光子吸収 / 時間分解分光 / ローダミン / イミダゾール二量体 |
研究実績の概要 |
光の強度に応じてフォトクロミック特性(光照射によって物質の構造、特性が可逆的に変化する現象)が変化する現象は非線形フォトクロミズムとよばれ、ホログラフィーの回折効率を向上し、フォトリソグラフィーや超解像顕微鏡などの空間分解能をさらに高める画期的な特性を発現しうる。本研究課題では、光劣化が少なく、より励起選択性の高い可視光に感度を持ち、LED程度の微弱な光の強弱によって物性が変化する高感度非線形フォトクロミック材料の開発を目的としている。平成30年度は、主に新しい化合物系における新規非線形フォトクロミズムの探索を行った。 非線形フォトクロミズムに関する研究を行う過程において、研究代表者は蛍光色素として幅広い分野で用いられているローダミンBの誘導体が比較的低い光強度閾値で非線形フォトクロミズムを示すことを世界で初めて見出した。この化合物は高強度な紫外LED光を長時間照射しても一切フォトクロミック反応が進行しない一方、比較的弱いナノ秒パルスレーザーを数秒照射すると効率的にフォトクロミック反応が進行して赤紫色に着色する。蛍光特性を非線形フォトクロミズムに伴って変化するこれまでにない特徴を有しており、超解像顕微鏡などへの応用に適した化合物系であると言える。 それ以外に、ラジカル解離型フォトクロミック化合物であるPICに別の新たなラジカル発生部位としてフェノチアジン、フェノキサジンを導入した新規化合物の合成に成功した。フェムト秒過渡吸収測定による詳細な解析から、この化合物はヘテロリシスによってまず初めに電荷分離状態を生成し、その後電子移動によってビラジカルを生じていることが明らかになった。このような特異な光反応系はこれまでになく、PICを基盤としたフォトクロミック化合物の可能性をさらに拡張できると期待する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来の研究計画では、青山学院大学の阿部二朗教授とともに開発した分子系を基盤として研究を計画していたが、新しい研究を独自に展開していく上で、非線形フォトクロミック反応を示す新規分子骨格を提案できることが望ましい。 また、従来の架橋型イミダゾール二量体やジアリールエテンなどを基盤とした非線形フォトクロミック反応は、非線形フォトクロミック反応に伴って変調できるのは吸収特性のみである。本研究で開発したローダミン骨格を基盤とした非線形フォトクロミック反応は、非線形フォトクロミズムを介して蛍光特性をも変調できる特性があり、これまでの化合物系では実現できない新しい特性を持っていると言える。さらに、本研究で発見したローダミン骨格の非線形フォトクロミズムは、ローダミン骨格のみならず、その他多くのキサンテン系骨格にも適用できる可能性が高い。キサンテン系色素はフルオレセインやクリスタバイオレッドなど、既に様々な色素が幅広い分野において用いられており、それらの色素に普遍的な特性として幅広い化合物系へと発展できる可能性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に発見したローダミン骨格における非線形フォトクロミズムは、蛍光特性を変調でき、バイオイメージング分野での活用が期待される。この化合物系の更なる展開として、以下の3点を検討している。 1)開発したローダミン化合物は紫外光にしか感度がなく、バイオイメージングに応用するためには可視光に応答する非線形フォトクロミック化合物の開発が必要である。ピレニル基をペリレニル基などの置換基を導入した新規化合物を合成することにより、可視光に感度を持つ非線形フォトクロミズムを実現する。 2)この非線形フォトクロミズムはローダミン骨格のみならず、その他多くのキサンテン系骨格にも適用できる可能性が高い。今後フルオレセインやクリスタバイオレッドなどの色素系においても同様の現象が観測されるかを検証し、キサンテン系色素における非線形フォトクロミック反応の普遍性を検証する。 3)開発した化合物の非線形光反応閾値は1 MW cm-2程度であり、連続光レーザーを顕微鏡下に集光すれば十分に反応を誘起できる。しかし、更に簡便に非線形反応を誘起するにはより低い光強度閾値が望ましい。非線形反応の起源となる中間状態は励起三重項状態であるため、励起三重項状態を更に長寿命化し、より光強度閾値の低い反応を目指す。 また、平成30年度に開発したフェノチアジンを導入したPIC誘導体では、ラジカル解離型フォトクロミック化合物であるにもかかわらず、ヘテロリシスによって結合が解離する特異な系を発見した。ラジカル発生部位のドナー性、アクセプターをより明確に分ければ、ラジカル解離型フォトクロミック分子骨格を基に、双性イオンを生成するこれまでにないフォトクロミック化合物を創出できる可能性がある。双性イオンの励起状態をさらに活用した光反応系を実現することができれば、新たな非線形フォトクロミック反応の実現にもつながると期待する。
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次年度使用額が生じた理由 |
若手研究における独立基盤形成支援(試行)による交付額。こちらについては別途基盤整備実績報告書にて収支報告を行う。
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