光の強度に応じてフォトクロミック特性(光照射によって物質の構造、特性が可逆的に変化する現象)が変化する現象は非線形フォトクロミズムとよばれ、ホログラフィーの回折効率を向上し、フォトリソグラフィーや超解像顕微鏡などの空間分解能をさらに高める画期的な特性を発現しうる。本研究課題では、光劣化が少なく、より励起選択性の高い可視光に感度を持ち、LED程度の微弱な光の強弱によって物性が変化する高感度非線形フォトクロミック材料の開発を目的としている。令和元年度は、主に新しい化合物系における新規非線形フォトクロミズムの探索を行った。 報告者はこれまでに比較的低い光強度閾値で非線形フォトクロミズムを示すローダミンBの誘導を発見しており、そのメカニズムを時間分解分光によって明らかにした。この化合物では、光励起に伴って電子移動がピコ秒スケールで起こり、電荷分離状態を形成することが分かった。この電荷分離状態にさらに光を照射すると、結合が解離して着色体が生成することが明らかになった。これらの分子は蛍光特性を非線形フォトクロミズムに伴って変化するこれまでにない特徴を有しており、超解像顕微鏡などへの応用に適した化合物系であると言える。 また、報告者はこれまでにラジカル解離型フォトクロミック化合物であるPICに別の新たなラジカル発生部位としてフェノチアジン、フェノキサジンを導入した新規化合物の合成をしており、その物質系がヘテロリシスを起こすフォトクロミック分子であることを見出している。本年度は、ヘテロリシスによって生じる電荷分離状態を更に長寿命化するため、トリフェニルアニノ基などの強いドナー性置換基を導入した誘導体を合成し、その光化学特性を詳細に明らかにした。
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