研究課題/領域番号 |
18K14201
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小西 彬仁 大阪大学, 工学研究科, 助教 (10756480)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 反芳香族性 / 開殻性 / ペンタレン |
研究実績の概要 |
反芳香族化合物は、小さなHOMOーLUMOギャップ・高い電子授受能力から、機能性材料としての展開が期待される。しかし、電子的な不安定性のためπ電子を局在化させ、その性質を弱めてしまう本質的な課題を内包している。本申請課題では、反芳香族化合物である8πペンタレンに対し、[a,f]型のベンゾ縮環を施すことで、反芳香族化合物におけるπ電子の高度非局在化、ならびに高対称構造の維持による基底状態制御を目的としている。すでに、申請者の最新の研究によるジベンゾ[a,f]ペンタレンの性質解明から、上記戦略に基づくπ骨格のトポロジー制御の有効性が強く支持される結果を得ている。その特性を活かし、「縮環のトポロジー制御による反芳香族性と開殻性の相関解明」を行った。 ジベンゾ[a,f]ペンタレンに対し、ベンゾ縮環のトポロジーを制御した誘導体を3種合成した。これらは、新たに縮環したベンゼン環の位置と数が異なるだけだが、その性質は互いに大きく異なることを、実験的・理論的に詳細に解明した。縮環の様式によって、(1)開殻性の消失および反芳香族性の増加、(2)開殻性は維持するものの反芳香族性は低下、する二つの分類が出来ることを見出した。これらは新たに縮環したベンゼン環の性質がペンタレン骨格に及ぼす摂動の違いと結論づけることが出来た。また、これまでに深く研究されてきた異性体であるジベンゾ[a,e]ペンタレン類と比較して、今回の系ではoーキノイド骨格の存在が、その反芳香族性と開殻性に大きな影響を与えることも見出すことが出来た。 これらの結果を基に、3件の論文発表と21件の学会発表を行うことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的とする化合物の合成およびその評価を達成した。これらの化合物の研究を通じ、さらなる標的・課題が明確になった。すでにこれらの課題の解明に着手しており、今後の進展が強く期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
新たな標的として、ジナフト[2,3-a,f]ペンタレンについてその合成と物性評価を行う。量子化学計算から、その構造がケクレ構造で記述できるにも関わらず、基底状態は三重項であることが見積もられた。実験的側面からその構造-物性相関を評価し、「ケクレ型」基底三重項分子の設計指針を提案する。ケクレ型基底三重項は理論の立場から提唱されていたが、実際の分子系で明確に観測された例はない。トリメチレンメタン(TMM)骨格が発現することに由来して、高対称構造が維持されるためと考えられる。従来、誰も明確に捉えられなかった特異な電子状態の発現を、ペンタレンに対する[a,f]縮環が為し得る大きな可能性を感じている。未だ見ぬπ電子の性質解明の観点で、新規性の高いオリジナルな研究である。
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次年度使用額が生じた理由 |
標的化合物の合成に際し、当初の想定を上回るスピードと効率で達成することが出来た。そのため、試薬・溶媒・ガラス器具等、合成のために計上していた予算分が、次年度使用分として生じた。次年度(2019年度)実施予定の標的化合物の合成およびその評価の達成に向け、活用する。
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