研究課題/領域番号 |
18K14206
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
梅宮 茂伸 東北大学, 理学研究科, 助教 (10802754)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マクロリド / 不斉合成 / 有機触媒 / 不斉アルドール反応 / 全合成 |
研究実績の概要 |
これまでの研究室の知見から小林らによって報告されているamphidionolide Nの立体はC14位が推定の立体と逆であることが示唆されている。そこで我々はC14エピマー体の合成を行った。また、これまでの当研究室の合成ルートではC1-C13ユニットの量的供給に問題があったため、大量合成に適した有機触媒を用いた不斉アルドール反応を基盤とするルートの確立を行った。不斉アルドール反応の条件を最適化したのち、ジチアンサブユニットとジエポキシドサブユニットのカップリングの条件検討を徹底的に行った。添加剤、温度、反応時間のスクリーニングを行うことで、収率90%という非常に高い収率でカップリング体を得ることができた。これによりグラムスケールでのC1-C13ユニットの供給が可能になり、その後のカップリング反応及びマクロラクトン化、合成終盤での検討が容易になった。
既に確立された方法に従ってC17-C29ユニットを合成し、これらをエンダースらの方法により立体選択的に連結した。その後数工程を経てマクロラクトンを合成した後、アセトニドの脱保護を行ったところ、興味深い事にC7位水酸基からエポキシドへの分子内攻撃が起こり、THF環が構築されることが分かった。なお、このTHF環を持つ化合物は高知大学の津田らにより既に単離されており、その詳細な立体は不明であるもののneocaribenolide Iと呼ばれる化合物だった。我々はこのneocaribenolide Iがamphidinolide N由来の化合物であると考え、立体情報を詳細に比較することでamphidinolide Nの真の立体構造を明らかにする事ができると考え、合成を進めた。最終的にamphidinolide Nと分子量が一致する化合物が得られた。現在スケールアップ合成を行い、その詳細な平面構造、立体に関する情報を集めている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前、当研究室ではamphidinolide NのC7及びC10エピマー体の合成を行った。このルートではC1-C13ユニットの合成において当量以上の水銀を使うステップの存在や、低収率に留まる反応が存在することから、ユニットの大量供給に問題があった。今回、研究室が独自に開発したジアリールプロリノール触媒を利用したグリオキシル酸エチルとアルデヒドとの不斉アルドール反応を利用することで、この問題を解決することができた。すなわち、不斉アルドールを用いることで、光学活性なジチアンユニットとジエポキシドユニットをそれぞれ数十グラムスケールでの供給に成功した。更にこれらで得たジチアンサブユニットとジエポキシドサブユニットのカップリング反応の条件検討を徹底的に行う事で、目的物を90%という完璧な収率で得ることができた。これによりグラムスケールでのC1-C13ユニットの供給が可能になり、その後のカップリング反応及びマクロラクトン化、合成終盤での検討が容易になった。
また、当初の予定とは異なるものの、酸性条件で分子内エポキシド開環反応が進行することを見出し、amphdinolide Nの類縁体と考えられるneocaribenolide Iの合成ルートを開拓することが出来た。合成終盤での条件検討を行う事で、neocaribenolide I及びamphidinolide Nの分子量と一致する化合物を合成することができた。1年間で最終物のマススペクトルを得ることが出来たため、研究はおおむね順調に進んでいるということができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でC1-C13ユニットの大量供給ルートを確立することが出来たので、続いて合成終盤での条件検討を行う。最終物のマススペクトルは得られたものの、マクロラクトン化を行ってから更に10段階もの変換を要し、更にそれぞれの収率は満足が行くものではない。低収率の原因は化合物の不安定性によるものなので、完全に解決することは出来ないが、種々の試薬、温度、溶媒などのパラメーターを変更することで各段階の収率を改善する事が期待できる。合成終盤での収率を向上する事が出来れば、最終目的物の供給が飛躍的に容易になるため、これまで困難であった真の立体構造に関する考察や生物活性研究が可能になる。まずは確立されたユニット合成法に従いC1-C13及びC17-C29ユニットを大量供給し、neocaribenolide Nの量的供給を行うとともにその立体構造を明らかにする。
続いてエポキシドを保ったまま、最終段階までの変換を検討する。すなわち、これまでの検討ではアセトニドの脱保護を行う際に比較的強い酸性条件が必要になるため、エポキシドが開環してしまう問題があった。Amphidinolide Nを合成するためには、このエポキシドの開環を防がなければならない。そこでアセトニドの代わりにより脱保護が容易な保護基を用いることが出来れば、エポキシドの損壊を伴うこと無く合成を進めることができると考えられる。Neocaribenolide Iの合成法を確立したのち、保護基の検討を徹底的に行う事でamphidinolide Nの合成へと展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬購入に使う予定であったが、予想以上に合成ルートの最適化が上手く行き、予定よりも試薬購入数が少なくなったため、次年度使用額が生じた。今回の検討でamphidinolide Nだけでなくneocaribenolide Iも合成する必要が出てきたので、この合成に必要な試薬を次年度では購入する予定である。
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