研究課題/領域番号 |
18K14208
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安川 知宏 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (40755980)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 不均一系触媒 / コバルト触媒 / 窒素ドープカーボン / 二元金属 / 酸素酸化 / オレフィンの水和 |
研究実績の概要 |
担持金属ナノ粒子触媒は、高活性かつ高頑健性を併せ持つ不均一系触媒として期待されるが、精密有機合成への応用例は、貴金属類のものに限られていた。地球上に豊富に存在するコバルトなどの第一周期遷移金属ナノ粒子を、配位能を有する担体上に担持し活性化することで有機合成に有効な触媒として展開できないか考えた。 窒素ドープカーボンを、配位能を有する担体とみなして用い、コバルトナノ粒子の修飾・活性化が可能であるか検討を行った。窒素源としては、ピリジンなどヘテロ環を有する高分子を用い、当研究室で開発してきた高分子カルセランド法を応用する形で触媒調製を行った。オレフィンの酸素付加反応をモデルに、異なる窒素源や調製法を用いて調製した種々の触媒活性を検討することで、窒素ドープカーボン担体の効果を調べた。本触媒はこの反応に有効に機能し、かつ担体の種類が活性に重要な影響を及ぼしていることを見出した。また、担体だけでなく配位力の強いアニオンを有する塩の添加によって、反応の選択性の制御が行えることも見出した。 更に触媒開発の過程で、二元金属ナノ粒子を検討したところ、酸化反応に対し大幅な活性の向上が見られることを見出した。 以上のように、当初の計画通り窒素ドープカーボンを、配位修飾能を持つ担体として活用することで、通常不活性であるコバルトナノ粒子触媒に結合生成反応に対する活性を付与することに成功した。また、担体の種類、配位性アニオン種の添加、二元金属の導入など様々な手法でナノ粒子触媒の活性をチューニングできるといった知見も得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ポリ-4-ビニルピリジンを窒素源に用いた、窒素ドープカーボン担持コバルトナノ粒子触媒の開発を行った。本法では、ポリマー溶液中で金属塩を還元しナノ粒子を予め調製し、これに貧溶媒を加えて生成した沈殿を高温で炭化するという方法であり、深刻な凝集を引き起こすことなくナノ粒子を安定に担持する事ができた。 本触媒がヒドリド源存在下におけるオレフィンに対する酸素付加反応に高活性を示すことを見出した。対照実験として、窒素を含まないカーボン担持の触媒を検討したところ反応は一切進行せず、窒素ドープカーボンがコバルトナノ粒子触媒の活性化に寄与していることが示唆された。ヒドリド源としてNaBH4を用いた場合、アルコール体を選択的かつ高収率で得ることが出来、幅広い種類の基質に適用可能である事も示した。一方、PhSiH3を用いた場合には、アルコール体とケトン体の混合物が得られる結果となった。この系に対し、触媒量の金属塩の添加を行ったところ、配位力のあるアニオン種を有するリチウム塩を用いた際に、アルコール体が高選択的に得られることが分かった。これは、配位性アニオン種がコバルトナノ粒子触媒の活性・選択制を制御できる事を示唆している。本条件は、NaBH4存在下では解離してしまうような還元に対する耐性の低い基質においても適用可能であった。 また、触媒開発の過程で二元金属ナノ粒子触媒の検討を行ったところ、コバルト・銅二元金属触媒において、酸素酸化反応に対する活性が大幅に向上するという予想外の発見があった。本触媒は、アルコール類の酸素酸化的エステル化形成反応において幅広い基質に適用可能であり、塩基非存在下でも貴金属触媒に匹敵する高活性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
オレフィンの酸素付与反応について、詳細な反応機構解明実験を行う。本反応は、ラジカル中間体を経由すると考えられ、ラジカル補足剤やラジカルクロックなどを使用することでこれを示す。また、酸素に限らず様々な反応剤(SOMOPhile)を検討し、多彩な結合生成反応への展開を行う。窒素ドープカーボンの役割も解明すべく、触媒の分析を行う。具体的には、電子顕微鏡による観察や、反応剤による処理前後でのXPS分析などを計画している。 二元金属ナノ粒子による酸化活性の向上に関する知見も興味深い為、更なる展開を行う。具体的には、アルコールとアンモニアを用いた酸化的ニトリル合成など、他反応においても高活性を示さないか検討を行う。また、二元金属ナノ粒子による反応加速効果の機構解明を行うべく、異なる金属組成比を有する触媒や、金属塩の還元の順番を変えて調製した触媒などによる対照実験を行う。これらの触媒は電子顕微鏡による観察など分析を行い、高活性の要因を探る。
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