本研究課題で提案したLewis酸触媒とπ電子材料との複合触媒の効果については既に実証に成功している。ナノチューブ表面の疎水性によって疎水性基質同士の反応が水中で効率的に進行することに加え、半導体型単層カーボンナノチューブと界面活性剤との強い相互作用を起点としてニッケル中心にユニークな性質が付与されることによってニッケル触媒による不斉反応のエナンチオ選択性が劇的に向上しており、敷衍すれば、立体選択性の低い触媒系に対する一つの処方箋となる潜在性を秘めていると言える。一方、単層カーボンナノチューブは水にも有機溶媒にも分散し難い点が一般的な応用上の制約になっている。本触媒設計では界面活性剤が基質に対して触媒量しかない点も考慮すると、より効率的な分散液調製法を探究することで応用の幅はより一層拡がると考えられる。そこで、アニオンに様々な構造の界面活性剤分子を導入し、評価を行った。キラルニトロン合成においては従来型のドデシル硫酸塩が最も良い結果を与えたものの、ヘテロDiels-Alder反応においては炭素鎖の短いスルホン酸塩の方が良いなど、反応によって最適な条件が異なることが分かった。また同時に触媒概念の更なる応用を図るべく、様々な不斉反応への適用検討を進めた。その結果、鉄、パラジウム、ビスマスなど各種金属触媒への概念拡張が可能であることが判明し、孰れも水中で反応が進行し、且つナノチューブとの複合化によってエナンチオ選択性の向上が見られた。
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