本研究は,光エネルギーを駆動力として塩化ナトリウムを塩素源とする塩素化法の開発を行うものであり,究極的には塩素化合物生産に必要なエネルギーを削減し,持続可能な社会に資する次世代有機合成化学の確立に貢献することを目指した。 前年度に,光触媒能と相関移動能を併せ持つ相間移動型光触媒が臭化カリウムによる芳香族臭素化反応に優れた活性を示すことを見出した。一方,触媒の安定性が低く電子不足芳香環などの不活性基質では触媒の失活により収率が低下することが明らかとなっていた。本年度は,前年度に得られた結果を基に、本研究の鍵となる相間移動型光触媒の最適化を行った。その結果,カチオン性の含窒素芳香族化合物に分岐構造を持つアルキル鎖を付与することで触媒の安定性が向上することが分かった。また,触媒の失活が反応中に起こる脱アルキル鎖に由来すること,分岐アルキル鎖によりこの脱アルキル鎖が抑制されることで安定性が向上したことが明らかとなった。この分岐アルキル鎖は光触媒能には影響を与えずに安定性を高めることが出来ると考えており,相関移動型光触媒の創製を行う上で汎用性のある置換基になる可能性がある。 本研究課題で得られた結果は,相間移動型光触媒という分子設計が目的のハロゲン化物塩によるハロゲン化反応に適していることを示唆していると考えている。今後は本触媒系を用いて塩化ナトリウムによる塩素化やフッ化カリウムによるフッ素化へと展開したい。
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