研究課題/領域番号 |
18K14216
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 武司 京都大学, 工学研究科, 助教 (20624349)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | らせん不斉 / 不斉増幅 / ホスト-ゲスト相互作用 / 高分子触媒 / 不斉自己触媒反応 / 非線形効果 |
研究実績の概要 |
触媒的不斉合成は、少量のキラル化合物から多量の光学活性化合物が得られる効率的な合成法である。特に、反応に添加したキラル化合物よりも高い光学純度で生成物が得られる触媒的不斉増幅反応には大きな関心が寄せられているが、効率的な不斉増幅が可能な反応系は限られている。これは、キラル低分子触媒においては、その反応機構において不斉増幅と不斉転写が不可分であり、反応系の設計が困難なためであると考えられる。 一方で高分子においては、キラル化合物の僅かなキラリティの偏りを高分子主鎖のらせん不斉として増幅することができる。らせん高分子を不斉増幅に利用し、さらに不斉増幅されたキラル高次構造を不斉反応場として利用した不斉転写ができれば、優れた触媒的不斉増幅システムとなることが期待される。本研究では、動的らせん構造を有するポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)に着目し、キラルゲスト応答性らせん高分子触媒を開発した。 まず、ポリキノキサリンにゲスト受容部位としてボロン酸部位を導入し、キラルゲストによる主鎖のらせん不斉誘起を行った。光学活性アミノアルコールが高いらせん不斉誘起能を示し、ほぼ完全な一方向巻きらせん構造が誘起された。また、光学活性アルコールにおいても効率的ならせん不斉誘起が可能であることが見出された。 この結果を踏まえ、ゲスト受容部位と配位性ホスフィン部位を導入したポリキノキサリンを合成し、キラルゲスト応答性らせん高分子配位子として不斉Pd触媒反応に適用した。キラルアミノアルコールを用いてらせん不斉誘起を行うことで、最高92% eeで生成物が得られた。また、不斉増幅を伴うらせん不斉誘起により、33% eeのキラルゲストを用いてもほぼ完全な一方向巻きらせん構造を有する触媒を調製でき、87% eeで生成物が得られた。これにより、不斉増幅を伴うキラルゲスト応答性らせん高分子触媒系の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目的はキラルゲスト応答性らせん高分子触媒を用いた不斉自己触媒反応の開拓であり、その実現に必要不可欠となる「キラルゲストによる完全な一方向巻きらせん不斉誘起」と「高エナンチオ選択的なキラルらせん高分子触媒の開発」を既に達成している。また、この二つを組み合わせることで、不斉増幅を伴うキラルゲスト応答性らせん高分子触媒系の構築にも成功している。また、光学活性アミノアルコールのみならず、光学活性アルコールをキラルゲストとして用いても効率的ならせん不斉誘起が達成されることを見出し、不斉自己触媒反応開拓へ大きな指針を得ている。以上のことから、研究は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見を基に、キラルゲスト応答性らせん高分子触媒を用いた不斉自己触媒反応の開拓に取り組む。キラルゲストと不斉反応の生成物が同一となる反応系を構築するために、ゲスト受容部位の改良と触媒活性部位の開拓を行う。 ゲスト受容部位の改良においては、既に良好な結果が得られている5位にボロン酸部位を導入したキノキサリン環構造をベースに構造修飾を行う。これにより、少量のキラルゲストや低光学純度のキラルゲストから完全な一方向巻きらせん構造を効率的に誘起できる高感度不斉増幅システムを構築する。様々なキラルゲストにより完全な一方向巻きらせん誘起を達成することで、不斉自己触媒反応の基質適用範囲の拡充を図る。 触媒活性部位の開拓においては、キラルゲストとして有効に働く光学活性アルコールを高い光学純度で与える反応に焦点を絞った展開を行う。遷移金属触媒反応としては、カルボニル化合物の不斉水素添加反応に取り組み、光学活性アルコールの高エナンチオ選択的合成を達成する。不斉求核触媒を用いた反応としては、第二級アルコールの速度論的光学分割を行う。 上記の研究で開発されるゲスト受容部位と触媒活性部位をポリキノキサリン上に集積することで、不斉増幅を特徴とするキラルゲスト応答性らせん高分子触媒を新たに創製する。光学純度の低いキラルゲストを作用させることでらせん高分子触媒に完全な一方向巻きらせん構造を誘起し、様々な不斉反応に用いることで高度な触媒的不斉増幅を達成する。最終段階では、キラルゲストと不斉反応の生成物が同一となる反応系を構築することで、不斉自己触媒反応を確立する。
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