研究実績の概要 |
合成化学的には安定で取扱い容易なアリルボロン酸エステル(Bpin)を用いる反応がより好ましいと考え、本反応剤を利用する反応系についても検討した。しかし、アリルボロン酸エステルに対してNCTSやTsCNを作用させたが、目的のシアノ化は進行しなかった。アリルボランの求電子的シアノ化に対しては、求核性とホウ素中心のルイス酸性を兼ね備えた9-BBN由来のアリルボランを用いることが重要であることが判った。また、アレンとHB(Ipc)2から調製した光学活性なアリルボランを用いてシアノ化を検討した。目的の反応は進行したが、不斉収率は66% eeにとどまった。さらに、反応剤の添加量、溶媒、温度、時間などの反応条件を精査したが、選択性は向上しなかった。また、基質をアレンに代えて環状1,3-ジエンを用いて検討した。環状1,3-ジエンと9-BBNの反応では、位置選択的にヒドロホウ素化が進行しアリルボランを選択的に与えた。この手法で調製した環構造を有するアリルボランに対する求電子的シアノ化を検討したところ、目的とするシアノ化が高効率かつγ位選択的に進行し、対応するβ,γ-不飽和ニトリルが得られることを見出した。さらに、反応剤の添加量、溶媒、温度、時間などの反応条件を精査することで、80%を超える高収率で目的生成物を合成することに成功した。また、本手法を種々の環状1,3-ジエンに対して適用して基質一般性を調査した結果、本反応が高い官能基許容性を示し、幅広い基質に対して適用可能であることが明らかとなった。さらに、合成したβ,γ-不飽和ニトリルのシアノ基を官能基変換することで、種々の有用化合物へと誘導化することに成功し、本反応の合成的有用性を示すことができた。また、本研究課題を実施する過程で、アリルボランの求電子的アミノ化が進行することを見出した。以上の結果をまとめ、学術論文誌に発表した。
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