本研究は高反応性ルイス酸-塩基会合体を有機合成において活用するための実用性および汎用性の高い発生・取扱手法の開発に取り組んできた。 令和2年度の成果として、前年度までに合成と応用を検討してきたN-ホスフィンイミドイル基を有するN-ヘテロ環状カルベン(PimIm)に導入可能なN-ホスフィンイミドイル基の拡大に成功し、これを論文として報告した。具体的には、enantio-pureな置換基やアミノ酸誘導体など、従来のN-ヘテロ環状カルベンには導入が難しかった置換基の導入を達成した。これらの結果は、N-ヘテロ環状カルベンの構造および反応多様性を大きく拡張するものである。 さらにPimImを用いた新規なルイス酸-塩基付加体を合成し、H2やCO2に対する反応性を、研究期間を通して精査した。また、N-ホスフィンイミドイル基上にジアリールボリル基を導入することで、新たに分子内ルイス酸-塩基付加体を創成し、これのH2やCO2、そしてボランに対する反応性も調査した。 N-ホスフィンイミドイル基上にジアリールボリル基を導入した分子内付加体においては、高温条件下においてもH2との反応は確認出来なかった。これに、外部から更に有機ホウ素化合物を加えたところ、想定外の反応が進行し、単一分子内にボラートとボリルカチオン等価体部位の両方を有する新規な有機化合物が得られた。現在、本研究により合成した単一分子内にボラートとボリルカチオン等価体部位の両方を有する新規な有機化合物の反応性調査を進めているが、カルボニル化合物のヒドロホウ素化など、種々の有機反応を触媒する興味深い反応性が見出されつつある。 以上の研究により見出した結果は、今後、高反応性ルイス酸-塩基会合体の反応性制御に基づく、新たな分子合成手法の開発へと展開できると期待される。
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