本研究では、キラル四級アンモニウム塩を不斉相間移動触媒として用いた塩基加水分解手法を用い、これまで人工触媒では困難であった、α-キラルエステル類の不斉塩基加水分解の達成を目指し、検討を実施した。具体的には、アミノ酸エステル類の不斉塩基加水分解における反応条件および触媒最適化や反応機構解析を実施した。さらに、ConFinderを用いた反応機構解析も行った。また、この過程において新たに高立体選択的不斉加アルコール分解反応を見出すことや関連するエノールエステル類の不斉加水分解に関する研究においてもその適用範囲や反応機構に関して興味深い知見が得られた。以下、詳細について述べる。 まず、不斉加水分解反応に関しては、様々な検討の結果、過剰量の塩基を用いることが選択性を維持したまま収率を向上させる上で重要であることがわかった。また、反応系中で生成するHFIPが生成物阻害を抑制し、触媒回転数向上に重要であることが明らかになった。さらに、ConFinderを用いた反応機構解析では、立体選択性を決定しうる3つの反応経路、①加水分解機構、②エステル交換-加水分解機構、③アズラクトン加水分解機構を想定し、検証を行ったところ、機構①が最も有力な反応経路であることがわかった。 また、本研究を進める中、本触媒系にアルコールを添加することで、アミノ酸エステルおよびアズラクトンの不斉加アルコール分解が高収率かつ高選択的に進行することを新たに見出した。不斉相間移動触媒を用いた加アルコール分解としては世界初の例となる。さらに本反応系では、立体選択性を殆ど損なうこと無く、触媒量を0.5 mol%まで低減することに成功した。また、関連するエノールエステル類の不斉加水分解に関してもその基質適用範囲や反応機構について興味深い知見を得ることにも成功した。
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