研究課題/領域番号 |
18K14229
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
草野 修平 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (80759291)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機ホウ素触媒 / ポリオール / 位置選択的化学変換 / 抗生物質 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
抗生物質などポリオール類の水酸基修飾による誘導体化は,新規抗生剤開発における基本戦略である.しかし,ポリオール上には類似の反応性を示す水酸基が高密度に集積しているため,任意の水酸基に対して選択的に化学変換反応を行うことは,最先端の化学変換反応をもってしても困難である.現行では,保護基を用いて所望する水酸基以外を不活性化することで,位置選択的な水酸基化学修飾を達成している.保護基の導入には多段階の合成工程を要するだけでなく,導入した保護基は最終的に除去しなければならない.この保護基の脱着過程は,ポリオール類誘導化の合成工程を増加させるため,ポリオール類誘導体の合成効率を低下させる最大の原因となっている. これに対して,我々は,ポリオール類の多くが共通部分構造としてcis-1,2-ジオール構造を有することに着目し,cis-1,2-ジオールを選択的に認識し,活性化することができる有機ホウ素触媒ベンゾオキサボロール(BO)を開発してきた.これまでに,ポリオール類の部分構造を基質としたモデル反応系において,BO触媒は有効に機能することを見出していた.そこで本研究では,BO触媒を駆使したポリオール類の直接的かつ多彩な水酸基誘導体化法の開発を目的とした.本年度は,(1)水酸基誘導化の多様化に向けたBO触媒系の拡張と,(2)抗生物質の直接化学変換反応の検討を行った.項目(1)に関して,BO触媒の反応条件を精査することで,cis-1,2-ジオールの酸化反応およびホスホリル化にBO触媒系を拡張することに成功した.さらに,項目(1)に関して,BO触媒を用いることで中程度の収率ではあるものの,保護基を必要とせずに抗生物質ムピロシンの位置選択的な直接アシル化およびアルキル化に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,BO触媒が適用できる反応系は,アシル化やアルキル化など水酸基上におけるシンプルな置換反応に限られていたが,本研究課題を実施することで,BOを触媒としたcis-1,2-ジオールの酸化およびホスホリル化反応が円滑に進行することを新たに見出した.すなわち,BO触媒により誘導化されるcis-1,2-ジオール構造の多様化に成功した.さらに,4つの水酸基が無保護の状態の抗生物質ムピロシンを基質とした場合も,BO触媒はcis-1,2-ジオール構造を正確に見分け,位置選択的に水酸基修飾できることを明らかにした.この結果は,本研究のコンセプトであるBO触媒の「認識」と「活性化」に基づくポリオール類の化学変換法の妥当性を支持する.以上の点から,本研究課題は順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究では、BO触媒により誘導化されるポリオール類の構造多様化,およびポリオール類の位置選択的化学変換におけるBO触媒の有効性を示すことができた.次年度も,これまで順調に成果を挙げることが出来ているBO触媒の「認識」と「活性化」に基づき,BO触媒によるポリオール類の化学変換法をさらに進展させる.具体的には,BO触媒系の機能拡張として,ジオール構造の立体反転,脱酸素的フッ素化,アリール化など新規反応系の検討を行う.また,マクロライド系やペプチドグリカン系抗生物質など多数の水酸基を有する抗生物質を基質として,BO触媒を用いた位置選択的な化学変換に挑む.これらの研究目標を達成するためには,現有のBO触媒の活性と選択性では不十分な可能性が考えられる.その場合,BO触媒に導入する置換基の検討を行い,触媒活性の向上を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
触媒合成や反応条件の検討が効率的に行うことができたため,次年度使用額が生じた. 2019年度計上予算と合わせて,抗生物質の購入や各種消耗品などの購入に使用する.
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