研究実績の概要 |
類似の反応性を示す水酸基が集積化したポリオール類を直接的かつ位置選択的に化学変換することは,最先端の分子変換反応を以ってしても容易ではない.そのため,現行では保護基を用いて所望する水酸基以外を不活性化することで,ポリオール類の化学修飾における反応位置を制御している.しかし,保護基の脱着にかかる多段階の合成工程は,ポリオール類の合成効率の低下を招いている.この点は,ポリオール類に関連する創薬や生命科学研究を遅延する主要な要因となっている. この解決策として,本研究では,ポリオール類に共通するcis-1,2-ジオール構造を認識・活性化するベンゾキサボロール(BO)触媒を基盤として,ポリオール類の直接的・位置選択的・構造多様性に富む水酸基変換反応の開発することを目的とした.本研究に着手した時点で,BO触媒による水酸基変換反応は,アシル化やアルキル化など水酸基上におけるシンプルな求核反応に限られていた.BO触媒により誘導化されるポリオール類の構造多様性を拡張するために,本研究では,ホスホリル化,酸化,グリコシル化,脱酸素的フッ素化反応などについて検討を行った.前年度にホスホリル化と酸化反応に成功し,最終年度である本年度はグリコシル化に成功した.新たに開発したこれらの水酸基変換反応を用いて,抗生物質の誘導化および糖鎖の中間体合成の検討を行った.3つの二級水酸基を持つ抗生物質ムピロシンを基質として,BO触媒による水酸基変換反応を実施したところ,cis-1,2-ジオール上で選択的に反応が進行することを見出した.また,BO触媒のグリコシル化を駆使することで,最小限の保護基の利用で糖鎖合成中間体の合成にも成功した.
|