本研究はメタンの高化学選択的な官能基化反応を実現するための金属ナノクラスター触媒の開発を目的としている。メタンの酸化反応に先じて、ベンジルアルコールの酸化反応をC60(OH)12、C60(OH)36で保護されたAuナノ粒子を用いて行ったところ、反応は円滑に進行し対応するアルデヒドが定量的に得られることがわかった。本反応の速度論解析を行うため、FT-IRを用いて反応プロファイルの追跡を行ったところ、これまで用いてきたAu:PVP系よりも早く反応が進行することがわかった。これはポリマー保護に比べ「単分子性の保護マトリクス」としてナノ粒子を弱く保護しているためであり、水酸化フラーレンマトリクスの特徴を明確に示す結果が得られた。また、反応速度はより脂溶性の高いC60(OH)12の方が高い値を示し、水酸化フラーレンの酸化度によって触媒活性に違いが出ることがわかった。XPSのAu4fにおけるbinding energyはAu:C60(OH)12の方が大きく、Auナノ粒子表面は弱いカチオン性を帯びていることがわかった。この相関関係から、C60(OH)12の場合水酸化フラーレンのπ面でナノ粒子を安定化していることが想定され、このコンポジットのモルフォロジーを明らかにするため、現在MD計算によるシミュレーションを進めている。 一方で、酸素を用いた反応を進める中で、前年度調製したPt:C60(OH)nがORR活性を持つ触媒電極として有用であることがわかった。加えて、貴金属ナノ粒子だけでなく卑金属酸化物のナノ粒子を安定化できることもわかってきている。これらの結果から、水酸化フラーレンは金属ナノ粒子の保護マトリクスとして有望であることを示すものであり、今回の研究期間でその一端を明らかにすることができた。
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