研究課題/領域番号 |
18K14232
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 将己 北海道大学, 理学研究院, 助教 (20712293)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 錯体化学 / 刺激応答性材料 / スピン状態 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
本課題では、外部刺激により色調と磁気特性を同時に変化させる金属錯体を開発するとともに、これを薄膜化することで迅速・高感度でガスや蒸気を検出するセンサー材料を開発することを目標としている。 前年度までの結果として、当初の予定通り蒸気曝露によって色調を変化させる一連のニッケル錯体群を合成に成功したが、蒸気によるスピン状態の変化を示すものは一部にとどまることが明らかになっていた。そこで本年度は、その原因を追究するとともにその結果を踏まえて分子設計へとフィードバックし、新しい錯体の開発も試みた。 まず磁気特性変化を示すものと示さないものの違いを検討するために、蒸気分子の脱離前後におけるX線吸収微細構造(XAFS)解析を行った。その結果、スピン状態を変化させる錯体については蒸気分子の脱離前後で明瞭に配位環境の対称性や結合長などが変化したのに対し、スピン状態に変化が見られなかった錯体についてはこれらが変化しないことが明らかとなった。これは、導入した配位子のもたらす配位子場分裂の大きさの違いに起因するものだと考えられる。 さらにこの結果を踏まえ、蒸気分子によって磁気秩序の変調を誘起すべく、不対電子を有する銅(II)イオンを導入したニッケル/銅混合金属錯体を合成し、同様に蒸気による色調および磁気特性の変化を測定した。その結果、得られた錯体は2種類の金属イオンを含むことに由来して、蒸気分子の吸着・脱離に伴い2段階の色調変化を示した。さらに、この錯体は蒸気脱離前にはメタ磁性的な挙動を示していたのに対し、蒸気脱離に伴いそのような挙動は消失するとともに弱いながらも残留磁化を示した。 以上のように2019年度は、昨年度までに得た錯体について構造-物性相関を詳細に検討し、この結果を応用することで、蒸気分子によって色調と磁気特性の変化を同時に示す新奇な刺激応答性材料の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度までに、当初の予定通り蒸気に応答して色を変化させるニッケル錯体群を系統的に合成し、その磁気特性のみならずXAFS解析などを行うことにも成功した。当初の予想に反し得られた錯体のうち蒸気によるスピン状態の変化を示すものは一部にとどまったが、それが功を奏し構造-物性相関を比較検討することに成功した。さらにその結果を踏まえて蒸気により磁気秩序を変化させる系の創成にも成功した。また、これらの研究と並行し薄膜の調製も試み、蒸気応答性金属錯体を用いた薄膜の作成にも成功しつつある。以上のように、本研究は目的とする新奇な外部刺激応答材料の開拓に向けて順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前項までに述べたように、これまでに蒸気応答性のニッケル錯体群について配位子の構造がスピン状態制御に大きな影響を与えることを見出し、得られた知見をもとに混合金属錯体による磁気秩序変化の誘起にも成功している。そこで最終年度はまず、2019年度に新たに得たニッケル/銅混合金属錯体について同様にXAFS解析を行い分子構造を解明したい。これにより蒸気応答前後の電子状態や配位構造の変化を詳細に解明し、その蒸気応答性の詳細を取りまとめる。またニッケル/銅以外の金属、例えばコバルト等を用いた錯体についても同様に検討し、蒸気分子が電子状態・スピン状態・磁気的特性に対し及ぼす影響について比較検討を行う予定である。 これらの結果を通して、色調と磁気的特性、特に磁気秩序を蒸気分子によって自在に制御できる薄膜材料を設計する指針を得る礎としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
目的とする金属錯体群の合成が当初の予定よりもスムーズに進み、また測定も比較的順調であったことから実験条件検討等のための消耗品の費用を節約できた。 最終年度は主として物性測定に注力する予定のため、液体ヘリウムや高純度溶媒等の測定用消耗品の購入および新規に装置購入を考えている。また最終年度であることから2019年度までよりも積極的に本研究成果を学会等にて広く公表するする予定であり、そのための旅費としても使用する予定である。
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