本課題では、外部刺激により色調と磁気特性を同時に変化させる金属錯体を開発するとともに、これを薄膜化することで迅速・高感度でガスや蒸気を検出するセンサー材料を開発することを目標としている。 前年度までの結果として、蒸気分子の吸脱着によって色調変化と連動してスピン状態や磁気秩序を変化させる金属錯体群の開発に成功した。特に前年度、水分子の配位/解離によってメタ磁性的な挙動をON/OFFさせる興味深いニッケル/銅配位高分子を得ていた。 そこで、まずこの挙動について種々の分光測定を用いて追跡を行った。その結果、d-d遷移吸収帯の比較から、配位水分子はまず銅イオンから、次いでニッケルイオンから脱着することが判明した。さらに、X線吸収微細構造(XAFS)分析からこの水分子の脱着後においてもニッケルの配位構造は変化していないことが判明し、配位構造を維持するために配位高分子鎖間で次元性の変化を伴う大きな構造変化をしていることが判明した。この構造変化による金属間相互作用の大きな変化が磁気的挙動の変化を引き起こしていると考えられる。以上のように今回、色調変化と連動した磁気的挙動の変化について機構解明に成功した。 一方、この配位高分子は極めて溶解度が低いことから薄膜化には至っていない。そこで、まずは既知の刺激応答性金属錯体をモデル分子として用い、錯体を薄膜化する手法を確立することにも努めた。その結果、蒸気応答性を示す銅錯体や力学刺激応答性を示す白金錯体の薄膜化、および刺激応答の迅速化に成功した。今後は、このノウハウを活かして今回得られた配位高分子の薄膜化にも取り組んでいきたい。 以上のように本年度は、本課題で見出した蒸気応答性配位高分子の磁気的挙動スイッチングの機構解明および刺激応答制金属錯体の薄膜化に成功し、外部刺激により迅速に磁気物性を変化させる薄膜作成へと展開可能な知見を得た。
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