研究課題/領域番号 |
18K14233
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井口 弘章 東北大学, 理学研究科, 助教 (30709100)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 一次元電子系 / 強相関電子系 / 配位高分子 / ナノワイヤー金属錯体 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
MX錯体の未踏の電子状態にひそむ新しい機能の創出を目指し、本研究では以下の2つのテーマに取り組んできた。 【テーマ1】AV相の実現による初の金属伝導性の発現とスピンラダー化合物への展開 【テーマ2】MX錯体への多孔性の導入による初の化学ドーピングの実現 本年度の主な成果として、テーマ1では、L-酒石酸から誘導される配位子(2S,3S)-2,3-diaminobutane-1,4-diol (dabdOH) を用いて新しいMX錯体の合成を試みた。硫酸イオンを対アニオンとして含むPdBr錯体は、多重水素結合の効果により、ジグザグ構造にもかかわらずPd(III)AV相となる初めての錯体であることが明らかとなった。この錯体のPd-Br-Pd間距離は、既存のあらゆるPdBr錯体の中で最短であったが、室温電気伝導率は0.05 S/cmとやや低く、ジグザグ構造によりキャリアの易動度が減少したことが示唆された。対アニオンを硝酸イオンに替えた場合は、このジグザグ構造は現れなかった。また、単核Ni(III)錯体である[Ni(en)2Cl2]Clを水蒸気存在下ですりつぶすことで、MX錯体である[Ni(en)2Cl]Cl2が得られることが知られていたが、この詳細な過程を粉末X線回折等を用いて明らかにすることができた。 テーマ2では、2-aminomethylpyridine (amp) 配位子にピリジル基を導入した新規配位子を合成し、Pt(II)錯体を得ることに成功した。このピリジル基をZn2+イオンに配位させることで、多孔性MX錯体の前段階となる集積型金属錯体の結晶を得ることができ、そのX線構造解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマ1については、いまだにヨウ素架橋Pt錯体の合成に成功していない点は計画通りに進んでいないと言えるが、dabdOHを用いていくつかの高導電性MX錯体が得られた点では順調である。また、AV相となるNi錯体で新しい刺激応答性を発見したことなど、当初計画に 無かった新しい展開も見られた。 テーマ2では、ピリジル基を有するamp配位子を使って集積型金属錯体まで得ることができており、順調に推移している。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
テーマ1については、引き続きヨウ素架橋Pt錯体の合成を目指すとともに、対アニオンにアルキル鎖を有するヨウ素架橋Pt錯体において、AV相とMV相の相分離現象がみられた錯体に焦点を絞り、圧力印加によってAV相の安定化を試みる。 テーマ2については、引き続きピリジル基を導入したamp配位子から多孔性MX錯体の合成を進める。また、dien配位子とパラ置換ピリジンを面内配位子に導入したMX錯体を用いて、多孔性をはじめ様々な機能性を持つMX錯体を合成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は配位子合成の割合が高く、費用を要する金属錯体原料を購入しなかったため、次年度使用額が生じた。これらは来年度に購入する予定である。 今年度の予備的な実験から、多孔性MX錯体の原料となるPt(II)錯体の合成には、メカノケミカル合成が有効であることが判明したため、来年度はボールミルの装置の購入を検討している。
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