研究課題/領域番号 |
18K14234
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
安東 秀峰 山形大学, 理学部, 講師 (00754946)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遷移金属錯体結晶 / イオンの細孔内運動 / 電子状態 / 核波動関数 |
研究実績の概要 |
本研究では金属錯体結晶(または多孔性配位高分子)に着目し,電子の量子状態と原子核の量子状態がいかに関連づきマクロな物性を発現するか,理論的に解明することを目指している.
令和元年度は,FeイオンとCuイオンが混在するプルシアンブルー類似系について,ジャングルジム状骨格の電子・スピン状態とヤーン・テラー歪み,アルカリ金属イオンの細孔内運動の三つがいかに関連付いているか明らかにすべく計算準備を進めた.任意形状(対称性)の細孔構造について,イオンの内部運動のエネルギー面構築に必要な計算コストを群論に基づき削減するプログラムを作成した.加えて,後述の通り,汎用プログラムでは解明が難しかった結晶中の内包イオンの核波動関数を計算するため,独自の理論プログラムの開発に取り組んだ.
金属錯体結晶は配位子等が形づくる細孔を多数有し,細孔中に拘束された原子・イオンの運動はしばしば量子力学に支配される.電子と原子核の双方の運動が織りなすプロセスが金属錯体結晶の特異な物性を発現させることも多い.従って電子波動関数を電子状態理論で,原子・イオンの運動を核波動関数計算に特化した理論手法で記述し,これらを組み合わせた理論プログラムを開発して,金属錯体結晶の複雑な機能発現機構を解き明かしてゆくことが望まれる.本研究では,原子・イオンの細孔内運動のポテンシャルエネルギー面を高精度電子相関理論で構築し,このエネルギー面を最小二乗法でフィッティングしてモデルハミルトニアンを構築する.このモデルハミルトニアンに三次元Fourier Grid Hamiltonian法を適用し,縮退系に強みのあるthick restart Lanczos法で解くことで,原子・イオンの高精度な核波動関数計算を可能にした.プログラムの開発を終え,電子状態が単純なLi内包フラーレンについてテスト計算を実施した.近く論文に取り纏める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) イオンの細孔内運動の計算コスト(主にエネルギー面)を細孔の対称性に基づいて最小化するプログラム,(2) モデルハミルトニアンの非線形最小二乗フィッティング・プログラム,(3) 三次元Fourier Grid Hamiltonian法とthick restart Lanczos法を組み合わせた核波動関数計算プログラムの三点を開発した.核波動関数の簡単なエネルギー解析手法も開発した.現在はLi内包フラーレンでテスト計算を実施しており,金属錯体への応用は次年度となるが,任意形状の細孔に拘束された原子・イオンの運動を解明する上でこれらのプログラムは有用と考える.以上の学術的意義を踏まえて,おおむね順調に進展しているものと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度に開発した理論プログラムを金属錯体系へ応用する.具体的には,イオン伝導と骨格の酸化還元,スピン状態の変化が連動するプルシアンブルー類似系や,対イオンの運動とスピン状態が結びつくFe錯体結晶へ応用する.現在のプログラムは単原子イオンの定常状態を対象とし,三次元Fourier Grid Hamiltonian法を利用している.さらなる多次元系や時間発展についても,理論プログラムの拡張を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
プログラム開発に注力し,電子状態計算パッケージのライセンス購入を持ち越したために次年度使用額が生じた.翌年度にライセンス購入を予定しているほか,科学技術用計算機と書籍の購入,学会出張等に助成金を使用する.
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