研究実績の概要 |
単一、あるいは複数の分子を一つの閉鎖的な空間に閉じ込める、分子カプセルに関する研究は、不安定化学種の閉じ込め、特異的な反応場としての活用など、 重要な知見が得られている。バナジウムを基盤としたポリオキソメタレートに着目し、無機化合物からなる分子カプセルを創製し、内部に閉じ込められた分子の 反応性と機能について解明することで、新しい“場”の概念を提唱することを目的とした。 前年度に明らかとなった半球状ポリオキソメタレートについて、溶液中で、各種ゲスト分子の親和力について分光学的に検討した。4.4Åの開口部を持つ半球状構造に対して、アセトン、DMF、DMSOは、半球状構造が好む電子リッチな官能基を持つにも関わらず、ゲスト分子として作用しないことが明らかとなった。これは、官能基周りの立体障害によるためであった。ニトリル、ハロゲン、エステル、ケトン、アルデヒドを持つ分子と半球状分子の会合定数を算出した。ゲストフリーでは構造の一部が反転するという特性から、51V NMRによる追跡が可能であった。各種官能基の中で、直線官能貴であるニトリルが最も会合定数が大きくなった。ハロゲンの中では、ブロモ基が最も相互作用が強かった。これは、ブロモ基のサイズと半球状構造内部のサイズが近しいことに起因する。エステルや鎖状ケトンはゲストにならなかったが、ラクトンや環状ケトンでは、開口部への立体障害を緩和でき、バレロラクトンやシクロブタノンでゲストとして相互作用することが明らかとなった。半球状構造は、低極性や無極性のCO,H2,O2,N2,CH4はゲストとならなかったが、臭素分子はゲストとして包接されることが明らかとなった。包接された臭素は分極しており、トルエンの臭素化ではベンゼン環が臭素化され、低級アルカンの臭素化では、特異的な選択性を示すなど、特異的な反応場として働くことが明らかとなった。
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