PNNP型四座配位子を有するモリブデン錯体 (PNNP)Moを新たに設計のうえ合成し、それらの酸化還元電位および可視光照射下での錯体のCO2還元能 (TON = 生成物の量/触媒の量) や構造的安定性、電圧印加下での触媒電流を測定・評価した。6族遷移金属であるMoは比較的地表上に豊富に存在する安価な金属であると同時に、CO2を生体内でギ酸へと可逆的に変換できるギ酸脱水素酵素の活性中心に見られる元素である。得られた Mo錯体に可視光を48時間照射し続けたところ、ギ酸(TON = 130)と水素(TON = 43)の生成が観測され、COの生成は全く観測されなかった。水の効果を検討した結果、少量の水を加えた溶媒を用いた際にギ酸生成に関するTONが255と最も高い値が得られた。本研究は単核のMo錯体がCO2の光還元触媒として単独ではたらくことを示した初めての報告例であるとともに、ギ酸選択的にCO2の光還元反応が進行する数少ない例の一つでもある。 イリジウム錯体(PNNP)IrについてはH30年度、更なる最適反応条件の検討を行った結果、CO2の光還元触媒としてはたらく単核金属錯体としては世界最高の触媒回転数(TON = ~1000 at 48 h)を達成した。さらにH31-R1年度では、単位時間に反応溶液を含む試験管に当たる光の照射強度を上げるなどの実験的な工夫を施し、より高いTON = ~3000以上を達成した。続いて、錯体を高分子化しよりカーボン電極に吸着させるための官能基を導入できる分子設計を新たに施し、Ir錯体のビピリジン部位にメチルエステル基を導入したIr錯体の合成に成功した。今後の課題としてはこの錯体を様々な炭素材料CCとより一体化させ電極化し、再生可能エネルギーである水とCO2を用いる人工光合成系により有効に適用可能な炭素―錯体ハイブリッド電極の開発と実現を目指す。
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