本研究の目的は,異核複核錯体を基盤としたLn間の相互作用(f-f communication)によるダウンシフティング(DS),アップコンバージョン(UC),ダウンコンバージョン(DC)を示すプローブや発光イメージング・磁気共鳴イメージング(MRI)といったマルチモーダルなプローブを作製することである. 昨年度達成したLn1TCAS1錯体の分取・異種ランタニド(Ln')添加による異核複核錯体(Ln2Ln'TCAS2)の選択的合成において,Tb1TCAS1の分取には成功したが生成する異核複核錯体(Tb1Yb1TCAS2)の割合が6割程度であり,改善の余地があった. 本年度は,Yb1TCAS1錯体の分取後Tbを添加する手法で選択的合成を試み,異核複核錯体(Tb1Yb2TCAS2)の生成割合を9割以上に向上でき,選択的合成法として十分な成果となった.一方,分取したLn1TCAS1錯体の発光特性も調査したところ,エネルギー移動を示すLn錯体であり,Ln3TCAS2錯体とあまり変わらない良好な発光特性であった. さらに異種ランタニドを単純に混合する従来の合成法で調製した同核・異核複核錯体混合サンプルについて,近赤外レーザーを用いたYb励起による発光スペクトルを調査したところ,Tb-Yb系ではTb発光が,Er-Yb系ではEr発光が観測され,Yb励起によるUC発光を示した.また,イメージングプローブの有用性を示すため,Tb3TCAS2錯体の細胞への導入を検討したところ,細胞への導入とTb発光による発光イメージングが可能であった.EPR効果によるアクティブデリバリーを志向してシリカナノ粒子にTb3TCAS2錯体を内包したプローブについても検討すると,同様に細胞への導入と発光イメージングに成功した.
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