研究実績の概要 |
水素ガスは、クリーンな次世代エネルギーとして期待されており、水素燃料を積極的に利用する水素社会の実現に向けた取り組みが世界中で進められている。水素ガスの利用にあたっては水素センサの使用が不可欠であるが、従来の電気検知式水素センサは水素分子を活性化するために貴金属が必要となり、火花発生による潜在的な爆発の危険性がある。本研究では、水素分子の活性化を有機ホウ素化合物と有機窒素またはリン化合物からなる嵩高いルイスペアを用いて行うことで、貴金属を用いない水素ガス検出を実現することを目的とした。 平成30年度の研究では、嵩高いルイスペアとしてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランとピペリジン誘導体を用い、芳香族アルデヒドの水素化に基づく水素ガスの蛍光検出について検討を行った。その結果、嵩高いルイス塩基として1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、芳香族アルデヒドとしてピレニル基を有するエチニルベンズアルデヒド誘導体を用いることで、嵩高いルイスペアを活用して水素ガスを蛍光法により検出することに初めて成功した。令和元年度は、水素ガス検出能の向上を目的として、ホルミル基のオルト位にメチル基、ジメチル基、ジエチル基を有する種々の誘導体を合成し、ジメチル体が優れた検出能を示すことを明らかとした。さらに、当初の研究計画に基づき、チオフェン環を有する新規のドナー・アクセプター型複素環式アルデヒドを合成したところ、嵩高いルイスペア存在下の溶液中で水素ガスに応答して発光色が変化するだけでなく、固体状態における発光色が機械的刺激と熱に応答して段階的に変化する興味ある刺激応答挙動を示すことを見出した。一方、有機リン化合物を嵩高いルイスペアとして利用した水素ガスの検出についても検討を行い、水素ガス添加後に色調が変化する系を見出すことに成功した。
|